08/13の日記

00:20
なつおと
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ボールが金属バットに当たる、甲高い音が聞こえた。

わっと盛り上がる歓声が響く。



ああ、打たれたのか



思わず浮かんだ感想は、投手側のもの。



それは物心ついた頃からずっと投手を担ってきた自分にとっては仕方ないことだと思う。

生きてきた中で、こんなにも虚無感に襲われる夏は初めてだ。

大袈裟ではなく、今までの人生の半分を俺は野球と共に過ごして来た。
練習がない日はあっても、ボールを触らない日は一度もなかった。
記憶が続く限り、俺の手の中にはいつも少し汚れたボールがあった。



けれど、今のこの手の平はからっぽだ。



燦燦と降り注ぐ太陽の光を遮ろうと手を伸ばせば、ずきりと腕が鈍い痛みを訴える。
逆光によって黒く見えるその腕は、不自然に曲がったままだ。



塗しすぎるその光は目に染みる。
細めた目には薄い水の膜が張っていた。



無意識のうちに止まっていた足を動かす。
通り過ぎたフェンスの向こう側から、ボールがミットに収まる低い音が聞こえた。

また歓声が上がる。

先ほどよりも大きく長いその歓声は、試合の終了を審判の声よりも雄弁に伝える。



誰かの夏が繋がって、誰かの夏が終わった。



そして夏は続いていく。



けれど、その夏の輪の中に俺は入っていない。



初めて感じた疎外感。



初めて知った一日の長さ。



すべてが初めてのことだらけで、どうすればいいのかわからない。

まるで迷子になったみたいだ。



無心に歩き続けるこの道の先に、何があるのかはわからない。


歩いても歩いても、あの場所に戻ることは二度とない。



湿気を含んだ風が吹き込んで来た。
痛いほどの光が雲に隠れて勢いをなくしていく。






俺の夏は、始まらない。







End





甲子園速報を見ていると、勝ったチームはもちろん負けたチームのことまで考えてしまいます。
今日この日に、誰かの夏が永遠に終わってしまう。

エラーを出した選手。

打者を打ち取れなかった投手。

打ち抜けなかった打者。

それぞれが心の傷をおってグラウンドを去っていく。

そんな事を考えていると、涙が溢れて止まらなくなってしまいます。
年々繋がれていく夏の輪に入れなかった浜田はどんな思いで空白の一年を過ごして来たのか。
そんな事を考えながら書いてみたらなんだか暗くなってしまいました←

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