休息は君の隣で。
□暇潰しと5センチの距離
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『暇潰しと5センチの距離』
「明日雨だって」
アイテムを詰め込んだ紙袋を両手に抱えて部屋に入ってきた浜田はどっこいしょ、といかにもジジクサイ掛け声と共に荷物をベッドに下ろした。
「明日までここで足止めか…」
窓際に置かれた一人掛けのソファに身を沈めていた俺は窓の外を見た。言われてみれば遠くの方の空は黒い雲で覆われている。恐らく今晩から降り出すのだろう。
「暇だよな〜」
ベッドに座り込んでアイテムを広げながら浜田はため息をついた。
「まぁ、たまにはゆっくり出来ていいんじゃね?」
「珍しいね。泉がそんなこと言うの」
言われてみれば、今まで雨が降った時暇だ暇だと文句を言うのは自分ばかりだった気がする。
それに、さっきまでは暇だと感じていたはずだけど、今は何故だかそんなに暇だとは感じなかった。
「ま、最近ずっと歩きっぱなしだったしね」
種類別にアイテムを小分けにしながら苦笑する浜田をチラリと見て、またすぐに視線を外に飛ばす。
「最近寒くなってきたよね〜。……あ、傷薬買うの忘れた」
しまった、と顔をしかめる浜田は立ち上がって窓に近づいてくる。ガラス越しに浜田と目が合う。
「雨、降らないうちに買いに行ってくるね」
ポン、と頭に手を置いて窓から空を見上げる浜田はそのまままた部屋を出ようと踵を返した。
「…どうした?」
カチャリとドアに手をかけた状態で浜田が俺を見て不思議そうに首を傾げる。
俺はといえば、脱ぎ散らかしていた上着を拾って身につけながら浜田の方に歩いていた。
「俺も行く」
「何か買うの?」
「別に」
ふーん?と不思議そうに浜田は首を傾げたが、表情はどこか嬉しそうだ。まったく、わかりやすい奴だ。
「留守番は寂しかった?」
ニヤニヤと笑いながら廊下を歩く浜田から顔を背ける。
「別に。暇だっただけ」
「へぇ〜」
「なんだよ」
「なんでもないよ」
クスクスと笑いを堪える浜田を睨み付けるが、特に効果はなかった。
宿屋を出れば冷たい風が頬に当たり、思わず身を竦めた。
「寒い?帰っとく?」
心配そうに顔を覗き込む浜田を押し退けて通りを歩いていく。
慌ててついてくる浜田を横目に確認しながら、少しだけスピードを抑える。
「さっさと済ませっぞ」
さみー、と肩をすぼめてそう言うと、浜田は楽しそうに軽い足取りで横に並んだ。
そう。ただ暇だっただけ。
別に寂しかったわけじゃないんだぞ。
自分自身にそう言い聞かせながら、何を考えてるんだと呆れてしまった。
呆れついでに少しだけ縮まった二人の距離は、寒いから、という理由にでもしとこうか。
一人心の中で呟いて漏らした苦笑に浜田は気付かず楽しげに歩いていた。