それでも僕は君と、

□第1話
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今から約1年前


突然世界に魔物が溢れた。


魔物たちは街を襲い、人を喰らい、更に増殖していった。



最初の犠牲になったのは、大陸の東にある小さな村だった。


数十人しかいない村人は魔物に食い殺され、たった一晩でその村は廃墟と化した。


自給自足の生活を営んでいたその村は、運が悪いことに周りの村や街との交流が少なく、そのため全滅した村の情報を国が手に入れたのは、それから1週間も後のことだった。







『魔物の異常発生』




その原因はまだわかっていない。


















泉がスプーンを置くと、カチャンと食器同士がぶつかり合う高い音がした。
泉は残っていたグラスの水を一気に飲み干した。


近くのテーブルにいた男たちは既に食堂から姿を消しており、他に客といえば少し離れたテーブルで食事を摂っているマントを着込んだ怪しげな二人組しかいない。

静かになった食堂で、泉はまたぼんやりと窓の外を眺めた。

右手は無意識のうちに腰から下げている愛銃を軽く撫でていた。












泉は村にいた頃、戦い方など知らなかった。

ある程度浜田に剣術は仕込まれたけれど、向いていないのか上達は遅かったし、なにより実践となると浜田が反対しまくって結局本物の剣に触る機会などなかった。

しかし、旅に出るからにはそれなりの武装をしておかなければならない。
ただでさえモンスターの異常発生で旅は危険なのだ。丸腰などもっての外だった。


泉は何か武器になるようなものはないかと、旅の準備を進めながら家中を探し回った。

そして見つけたのがこの銃だ。


物置の片隅に、忘れ去られたように埃を被った箱の中にこれはあった。
どうしてあの家にこんなものがあったのかは謎だったが、それでも武器になるには違いない。泉は早速銃弾もないか探した。
しかし、銃弾を見つけることは出来なかった。

もしかしたら弾が無くなったから物置にしまい込んだのかもしれない。

泉はそう考え、落胆したものの、村にたった一軒だけある道具屋で銃弾を発見することが出来た。






準備を整えた泉は、最後に義両親の墓に花を添えて村を後にした。









それから1年。



泉には銃の才能があったのか、それとも実践経験を積んだからか、腕前はメキメキと上達した。


今ではすっかり馴染んだ銃をホルダーから取り出して、泉はそれを眺めた。



「へぇ。銃なんて珍しいね」



突然背後からかけられた声に、泉は反射的に銃口を向け、引き金に指をかけた。



「うわっ!ちょ…!あ、危ないって!!」

「…いや、今のは水谷が悪いと思うよ」



銃口の先には、慌てたように両腕を顔の前でクロスさせ身を守る茶髪の少年がいた。その横では苦笑いを零しながらも泉が持った銃を軽く手で押して水谷と呼ばれた少年から銃口を反らしている少年がいた。
二人とも同じ薄茶色のフード付きコートを着ていて、どうやら先程食堂の端で食事を摂っていた二人組のようだ。



「わ、悪い」



二人の姿を見た泉は慌てて銃を下げた。
それを確認して水谷はホッとしたように胸を撫で下ろした。



「こっちこそ急に話し掛けてごめんねー」

「いや、別にいいけど」



ふにゃりと表情を崩して笑う水谷と、ニコニコと人懐っこそうに微笑んでいる少年を泉は訝しげに見る。



「お前ら、誰?」



警戒心をあらわに泉が眉を潜めると、水谷がきょとんとしてもう一人の少年を見た。



「あれ?こいつじゃないの?」

「…水谷。もう忘れたの?」



少年は呆れたように水谷を見ると、何か思い出したのかそっか!と言ってポンッと手を叩いた。
その様子にはぁ、とため息をついて少年は泉に視線を戻した。



「俺の名前は栄口勇人。で、こっちは水谷文貴。改めて初めまして」

「え?あ、あぁ」



にっこりと笑って右手を泉に差し出してくる栄口に泉は戸惑いつつも手を差し出して握手を交わす。



「よろしくー」



次いで水谷とも握手を交わすと、二人はそのまま許可も取らずに泉の向かいの席へと腰掛けた。



「な…なんか用か?」



突然現れた二人に泉は戸惑いを隠せず、居心地悪そうに二人の顔を交互に見遣った。



「うん。君の武器についてちょっとね」

「俺の武器?」



栄口は泉が持っている銃に視線を向けて頷いた。
泉はズシリと手に馴染んだそれを見た。



「ちょっと見せてもらってもいい?」

「え…」



出会ったばかりの相手に自分の武器を預けるのは気が引け、泉は躊躇した。
それに気付いたのか栄口はニコリと笑ってもちろん、と口を開いた。



「弾は抜いてもらって構わないよ」

「大丈夫だって。ホントに見るだけだし」



二人の様子に敵意や悪意はなさそうだ。泉はじゃあ念のため、と銃弾を抜いて栄口に銃を渡した。







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