不透明な僕らは、

□過去編
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promise












「祐くん、今日は何が食べたい?」



葉山典子は小さな息子と手を繋いでのんびりと歩いていた。
黒いランドセルを背負った祐一は、えっとね、と少し考えると、表情を明るくして母親の顔を見上げた。



「ハンバーグがいい!」



大好物のハンバーグのことを考えているのか、祐一はキラキラと目を輝かせながら典子と繋いだ手をブンブン振る。
そんな祐一を見てクスクス笑いながら典子はそうねぇ、と呟いた。



「じゃあハンバーグの材料買いに行かなくちゃね。祐くん、何がいるかな?」



楽しげな典子の問い掛けに、祐一はうーん、と考え込む。



「お肉とー、あ!あと、ケチャップ!」



いつもお皿に乗って出てくるハンバーグを思い浮かべ、茶色く美味しそうなハンバーグの上には真っ赤なケチャップが付いているのを思い出したのだ。

祐一の答えに典子はあらあら、と更に楽しそうに笑った。



「そうね、ケチャップも必要よね。でもね、あとは玉ねぎと、タマゴとパン粉がいるのよ?今日はニンジンも入れてみようかしら」

「えー!ニンジン嫌いー!」



オレンジ色のニンジンを思い浮かべて、祐一は思わず顔をしかめて典子の手を引っ張った。
そんな祐一の抗議を気にした様子もなく、典子は足取り軽くスーパーへと歩いて行く。



「好き嫌いしてると、お父さんに笑われちゃうわよ?」

「お父さんもピーマン食べないもん!」



典子の言葉に、祐一は負けじと言い返す。
父親がいつもお皿にピーマンだけを残しているのを、祐一はしっかりと見ていたのだ。



「あら、いけないお父さんね。じゃあ、今日はピーマンも炒めてハンバーグと一緒に出しましょう!お父さんも祐くんも残すのは許さないからね?」

「えー!ピーマンも出るのぉ!?ヤダー!」



まさか自分の言葉で、夕飯に嫌いな食べ物が増えてしまうとは思わなかった祐一は慌てて首を横に振った。
それでも典子はダーメ、と祐一の頭を軽くポンポン、と叩く。

祐一は、この典子の頭の撫で方が好きだった。
軽く、髪を撫で付けるように優しい手の重さはなんだかふわふわとしている感じがするのだ。



「祐くんがちゃんと全部食べられたら、デザート出しちゃおうかな?」



デザートという言葉に、祐一は表情を一転させた。



「デザートってなになに?」

「祐くんが好きなプリンよ」

「プリン!」



祐一の頭の中では、熱々のハンバーグの隣でふるふると揺れる甘いプリンが登場した。
普段デザートなど出ないからか、すごく豪華な夕食になった気がする。
早くもワクワクとした気持ちが心の中で動き始める。



「僕、ニンジンもピーマンも食べる!」

「そう。祐くんは偉いね」



嬉しそうに笑う典子を見て、祐一も嬉しそうに笑った。



「ねぇお母さん!好き嫌いなくなったら、毎日デザート出る?」

「そうねぇ、どうしようかしら?」



赤い夕日が背後から祐一たちにぶつかり、目の前に黒く、長い影が伸びる。
祐一は自分の影を踏もうとピョンピョン跳びながら歩く。
それでも典子と繋いだ手は離さない。



「ぜーんぶ無くなったらね」

「本当?」

「本当よ」



右足を上げて影を踏もうとしたが、影も一緒に右足を上げたので届かない。
祐一はぴょん、と勢いで小さく跳ぶと、立ち止まって典子を見上げた。



「じゃあ指切り!」



繋いでいた手を離して、祐一は小指だけを立てた手を典子に伸ばした。
典子はしゃがむと、祐一の小さな手に小指を絡める。



「ゆーびきーりげんまんうーそつーいたらはーりせんぼんのーますっ」



小指同士を絡めた手を上下に動かしながら、祐一は歌った。
「ゆーびきった!」と歌い終わると同時に、二人の手が離れる。



「約束したからね!お母さん!」

「うん。約束ね」



楽しそうにはしゃぐ祐一に微笑みながら頷くと、典子は立ち上がり、片手を祐一に差し出した。



「さ、祐くん。行きましょう。急がないとお父さんが帰って来ちゃうわ」

「うん!」



差し出された典子の手を取ると、祐一は元気よく頷く。

二人はスーパーへと再びゆっくりと歩き出した。










THE END





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