不透明な僕らは、

□過去編
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Dear my family










「雪子、お誕生日おめでとう!」



パンパンと、クラッカーが鳴る爆発音が小さな病室に響いた。
母の腕の中にいる小さな弟は、驚いたように目をキョトン、とさせている。
久山雪子は紙でできた三角帽子を頭に乗せて、目の前に置かれた丸いケーキに刺さる蝋燭の火を吹き消した。

9本の火は雪子の息に揺れて、一本、また一本と消えて行く。
最後の一本が消えると、蝋燭から白い煙が一筋、ゆらゆらと宙に漂って消えた。



「おめでとう、雪子」



パチパチと手を叩くと、父は四角いカラフルな包装紙に包まれた箱を雪子に手渡した。
雪子が父の顔を見上げると、父はニッコリと笑って頷く。



「…わぁ!キレイ!!」



包装紙を綺麗に剥がし、箱を開けると、そこには綺麗な貝殻で飾り付けられた写真立てが入っていた。
雪子は目を輝かせて写真立てを取り出す。



「気に入った?」

「うん!ありがとう!!」



写真立てを胸に抱いて、雪子は両親にニッコリと笑いかけた。
母の腕の中にいる弟は、うーうーと手をバタバタしている。

雪子はそんな弟を見ながら、少し寂しい思いがした。



生まれたばかりの弟は、ずっと、毎日両親に囲まれているんだ。

自分は病室に閉じ込められて、両親一緒に会えるのは週に1度か2度。

なんでなんだろう。



「ねぇ雪子。春樹を抱いてみる?」

「え?」



ぼんやりと弟、春樹を見ていたのを、母は勘違いしたようだ。
雪子は慌てて母の顔を見ると、母はニコニコと楽しそうに笑って春樹を雪子に差し出している。

小さな赤ん坊を抱くのは初めてで、写真立てをサイドテーブルに置くと、雪子はドキドキしながら春樹に手を伸ばした。



「あ、重い…」

「うふふ、春樹はよく食べるから」



春樹を母から受け取ると、ズシリ、と腕に来る。
生きている重みだ。

雪子は膝の上に春樹を座らせるように乗せると、まだ首が座りきっていない春樹の頭と体を支える。



「雪子は抱っこが上手だなぁ」

「お父さんったら、抱っこが下手ですぐ春樹を泣かせるのよ」



感心したように雪子を見る父に、母は困ったように笑う。
父は参ったな、と困ったように頭を掻くと、雪子の頭をポンポンと優しく撫でる。



「さすがお姉ちゃんだな。ほら、春樹が笑ってるぞ」



父の言葉に雪子が春樹を見下ろすと、春樹は雪子の顔を真っ直ぐ見て楽しそうにキャッキャッと笑っていた。



「うふふ。凄いわ。お姉ちゃんがわかるのね」



母も嬉しそうに二人を見守っている。
雪子は、人差し指を春樹の前に差し出した。
すると、春樹は両手を伸ばして雪子の人差し指をギュッと掴んだ。

その手の小ささに、雪子はビックリした。



「そうだ!4人で写真を撮ろう!」



父ははしゃぐようにそう言うと、ゴソゴソと鞄の中からポラロイドカメラを取り出した。



「ほら、これならすぐ写真立てに飾れるぞ!」



ウキウキとカメラをセットする父は、まるで自分の誕生日のように楽しそうだ。
そんな父を見ながら、雪子は母と顔を見合わせて笑った。



「ほらほら、写真撮るぞー」



タイマーをセットし終えた父は、雪子と春樹を挟むように母とは逆のベッドサイドに座った。

父と母、そして春樹の体温を感じて、雪子は嬉しそうに笑った。








THE END






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