不透明な僕らは、
□過去編
3ページ/9ページ
friends
ホームルームも終わって、部活に入っている友達に別れを告げた後、宮川香苗はのんびりと教科書を鞄に詰めていた。
もうすぐ期末テストなので、家で勉強をするためだ。
とは言っても、どうせ持って帰ったってことで満足して勉強なんてしないんだけれど。
「辞書は…重いし、いいや」
一旦取り出した古語辞典を、もう一度引き出しの中に戻すと、ズッシリと重くなった鞄のチャックを閉めようとした。
「………数学は明日もあるし、やっぱ置いとこ」
閉めかけた手を止めて、鞄の中から数学の教科書とノート、問題集を取り出す。ついでに物理の教科書も出したのは気が付かないふりで。
「香苗ー!今日ヒマー?」
増減を繰り返す鞄の中を見ていた香苗が顔をあげると、教室の入口から隣のクラスの武藤綾がひょっこりと顔を覗かせているのに気付いた。
「ヒマだよー」
「じゃあさ!パフェ食べに行こう!パフェ!」
武藤綾は1年生の時同じクラスだった小柄な女の子だ。
香苗とは出席番号が前後なため仲良くなり、2年生になってクラスが違ってもそれなりの付き合いを続けていた。
「あれ?綾ダイエット中じゃなかったの?」
鞄を閉めながらニヤッと笑って綾を見れば、綾はエヘヘ、と照れたように笑う。
「今日は休憩!」
「一昨日もそう言ってたじゃん」
アハハと笑いながら、香苗は綾が待つ入口まで歩く。
「そんなんじゃ、中井くんに振り向いてもらえないよー?」
「もう!香苗!」
香苗は綾の元まで行くと、コソッと耳打ちした。
瞬間、綾の頬に朱がさし、慌てたようにキョロキョロと周りを見渡す。
綾はサッカー部の中井の事が好きなのだ。
「いるわけないじゃん!もう部活行ってるって」
「わ、わかんないでしょー」
真っ赤になる綾に笑いながら香苗は階段に向かって歩き出した。
綾も慌てて香苗を追う。
「告んないの?」
「んー…自信ないもん」
少しズレてしまったマフラーを巻き直しながら、香苗は綾の顔を伺う。
綾は困ったような、恥ずかしいような顔で笑っている。
「もうすぐバレンタインだし、言っちゃいなよ」
「えー、貰ってくれるかなぁ?中井くん、競争率高いし」
サッカー部というものは、入っているというだけで何故か女の子にモテる。もちろん、顔にもよるけど。
綾が好きな中井も例外ではなく、その上ルックスも中の上。成績は普通だが、性格はサッカー部らしくなくのんびりとした少年だ。
そのため、女子には人気があり、結構本気なコが多いのだ。
「早くしないと、誰かに取られちゃうよ?」
「うー…。ところで、香苗は安藤くんにあげるの?」
「あ!話逸らした!」
悩んでいたかと思えば、今度は綾がニヤッと笑って香苗を下から見上げた。
香苗は慌てたように顔を逸らす。
冷たい風がヒュッと吹いて、香苗の前髪を靡かせた。
「逸らしてないよー。バレンタインの話じゃん?で、どうするの?」
クスクスと笑う綾のストレートの髪も風に揺れる。
香苗の髪は少しくせ毛な為、ひそかに綾の真っすぐな髪が羨ましかった。
綾いわく、香苗の髪はキレイなウェーブだからパーマいらずで羨ましいらしいが。
「ん〜…、でも、ガラじゃないもんなぁ」
「そんなことないって!あーあ、香苗は安藤くんと仲良くていいなぁ」
ハァ、と綾が吐いた息が白くなり、空へと消えて行った。
のんびり歩いていると、ガソリンスタンドを曲がって少し行った所に綾が言っていたパフェのお店が見えてきた。
「あんなのただの腐れ縁だって」
「でも好きなくせにぃ」
「あーやー」
クスクス笑う綾に、香苗も思わず笑ってしまった。
「じゃあさ!チョコ、一緒に作ろうよ!」
ウキウキと楽しそうに綾が手を叩いた。
綾はそういった女の子らしい事がとてもよく似合う。
香苗は、中学の頃からの男友達である安藤の顔を思い浮かべた。
「うー…ん…」
「ね!かーなーえ!」
「…わかった。一緒に作ろう」
綾に押されるように香苗は頷いた。
うまく出来るかはわからないけれど、綾が一緒なら頑張れる気がした。
「よーし!じゃ、気合い入れにパフェいっちゃおー!」
「おー!」
キャハハ、と笑って二人は店の扉を開けた。
1ヶ月後に迫る決戦に心を踊らせながら。
THE END