不透明な僕らは、

□第5章
2ページ/3ページ





「ん〜…、やっぱなんも聞こえない」

「電波はなんとか復活してるっぽいけど…」



ジーと耳障りなノイズを出し続けるラジオのチャンネルを弄りながら、水谷と沖は困ったように顔を見合わせる。
昨日職員室で見つけて持って来たんだけどそのまま忘れてた、と水谷がラジオを取り出したのは30分前。

地震が起こって2日が経ち、もしかしたら街のライフラインなども復活しているかも、とずっと情報を求めてラジオと睨み合っている。



「やっぱりまだ街の方も大変なのかな?」



沖がラジオのチャンネルを変えながら不安そうに呟いた。
水谷はうーん、と唸って、ガタガタと風に鳴る窓を見つめた。



「もしかしたら、風の影響とかもあるのかも。なんか台風並に強いし」



わかんないけど、と苦笑しながら頭を掻く水谷の様子は沖と比べ比較的緩く、その緩さに沖も心なしかホッとして笑った。



「なんか、水谷って水谷だよね」

「えー?なにそれ?」

「ううん。何でもないよ」



クスクスと笑う沖の腕を、水谷は気になるじゃん、と笑いながら小突く。
窓の音に掻き消されそうな程小さなラジオのノイズがほんの一瞬途切れたことに、その時二人は気がつかなかった。















「階段も結構崩れてんな」



瓦礫を乗り越えながらたどり着いた2階へと続く階段は、壁が剥がれ落ちてきたり階段自体が一部崩れていたりと、上がるには少々手こずりそうだと一目でわかる。
しかし、ここ以外には上へ繋がる通路は無く、あるとすれば外に設置されているだろう非常階段だけだ。外が暴風である以上、この階段を使って2階へ上がる以外方法はなさそうだった。



「オレから行く。大丈夫そうだったら呼ぶから、それまで待っててくれ」

「気をつけろよ」



先頭に立ったのは花井だ。
心配そうに声をかける阿部に頷くと、花井は瓦礫に埋もれた階段に足をかけて踏み場を確かめた。

剥がれた壁に片手をついて、瓦礫に乗ると、瓦礫は花井の重さに少しぐらついたが、すぐに安定を取り戻して花井の体重を支える。
元の階段が露出している箇所は少なく殆どが瓦礫のため、花井は一段一段慎重に足を進めていく。

時折花井が乗った衝撃でバランスを崩した瓦礫が階段を滑り落ちていったが、何とか残っていた手摺りに捕まり花井は難を逃れた。



「…まだ踊り場か」



少し広くなった階段の踊り場につくと、花井は思わず息をついた。
階段を上る行為は平地の瓦礫を乗り越えるのとは違い、思っていた以上に危険で神経を張るものだった。

斜めになっている階段では瓦礫は崩れ落ちやすく、自身のバランスも取りづらい。下手をすれば瓦礫と共に階下へ真っ逆さまになる可能性があるのだ。


階段の半分を乗り越えホッと息を吐いたのもつかの間、花井は気合いを入れ直して残り半分の階段を見上げた。















「見てるだけでヒヤヒヤしちまうな」

「次は実践だけどな」



花井が階段を危なっかしく上って行くのを見守っていた巣山は、花井が階段の踊り場に辿り着くのを見届けると、大きく息を着いた。
その横では、同じように花井を心配そうに見上げる泉が苦笑しながら肩を竦めている。



「…風、強くなってるよな」



建物の隅の方に位置するこの階段は、自然と窓との位置も近い。
地震によって割れることを免れた窓は風の勢いをまともに喰らってガタガタと今にも外れてしまいそうなほどに震えている。

先程からその音は大きくなっているし、風がビュービューと鳴る音も引っ切りなしに聞こえている。
時折瓦礫が崩れる時以外に音がしないこの空間では、その風音は嫌でも耳に入ってくる。



「…あいつら、大丈夫かな?」



残して来た仲間たちを思い、泉はポツリと小さく呟いた。
学校の窓は殆ど割れてしまっていて、風を防ぐ手だてはない。
もしかしたら、西広が言っていたように移動を余儀なくされているかもしれないが、それは浜田に負担がかかることに違いない。

何とか移動せずに無事でいてくれたらいいけど、と泉は煩く鳴り続ける窓を見つめながら思った。



「西広や栄口がいるんだ。あの二人なら最善の策を取るだろ」



小さく呟かれた泉の言葉を聞き取った阿部は、肩を竦めて何とは無しにそう言い切った。
部内でも特に冷静で頭の切れる二人の顔を思い浮かべ、泉はそうだな、と小さく笑った。



「着いたぞ!2階もなんとか大丈夫そうだ!気をつけて上って来いよ!」



視界から消えていた花井の声が階上から響いて来た。
花井が2階に辿り着けたようだ。
泉たちは表情を明るくして顔を見合わせると、一人ずつ、ゆっくりと階段に足をかけた。





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ