不透明な僕らは、

□第5章
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「やっぱり、一度街に下りるべきだと思う」



包帯を換え、額に濡れタオルを乗せた浜田は未だに苦しそうだ。

そんな浜田を見ながら口を開いたのは栄口だ。



「浜田さんの熱、もしかしたら破傷風かもしれない。そうじゃなくても、あの傷は医者に見せた方がいい」



ゼイゼイと、苦しげに呼吸を繰り返す浜田を見て、花井は辛そうに視線をさ迷わせて考え込む。



「どっちにしろ、消毒液も包帯も残り少ないんだ。街に探しに行かなきゃいけない」



迷う花井を後押しするように、栄口は続ける。
それでも答えを出せない花井に、ついに泉が口を開いた。



「俺は行く。ここでじっとしてんのなんて、嫌だ」



ベッドの傍に立って浜田を見つめていた泉は、固い決意を秘めた真っすぐな視線を花井に向けた。



「泉の言う通りだよ。このままじゃ、浜田さんヤバイんだろ?」



巣山も泉の言葉に賛成を示した。
じっと考え込んでいた花井は、諦めたようにため息を一度つくと、大きく頷いた。



「分かった。街へ下りよう」



花井の決断に、泉は表情を明るくした。
ただし、と花井は続ける。



「行くのは4人だけだ」

「4人?なんで?」



花井のその条件に誰もが首を傾げた。
それは予想の範囲内だったのか、花井は真剣な険しい表情のまま口を開いた。



「あんまり大人数で行くと動きが取りにくいってのが一つ。あとは万一怪我人が出た時のためにってとこだな」

「じゃあ、誰が行く?」



花井の言葉に納得したものの、問題は誰が行くかだ。
隣同士顔を見合わせながら誰が行くのか、まるで出方を伺っているような沈黙が落ちた。



「まず俺は行くからな」



最初に手を挙げたのは花井だ。
人一番責任感の強い花井は街に行くことが決まった時点で自分は街に行くことを心に決めていた。

その花井に押されるように、泉も手を挙げた。



「俺も行く。俺が言い出したことだからな」



苦しそうに息をする浜田をじっと見つめて、泉は決心したように表情を引き締めた。



「じゃあ俺も行く!」

「俺も」

「俺も行く」



二人につられるように、次々と手が上がる。
結局、部員全員の手が上がった状態になってしまったことに、花井はため息をついて苦笑した。

誰も譲る気はないらしく、しばらく経っても膠着状態の部員たちに花井は困ったように眉をひそめた。



「時間もないし、俺が決めるぞ?」



真剣な表情で互いを見つめ合う部員たちに、花井がそう提案すると全員頷いて花井を見つめた。

花井はしばらく考え込むと、残り二人のメンバーの名前を告げた。



















「思ったより風が強いな」



花井は肩にかけたスポーツバッグをかけ直して隆起したアスファルトに足をかけた。
西から吹いてくる風は耳元でビュービューと、まるで嵐のような轟音を立てている。そのせいもあり、先ほど呟いた言葉は誰にも届かなかったようだ。

花井は先頭に立って、足場を確かめながら少しずつ歩みを進める。
時々後ろを振り返り、残りの3人がちゃんとついてきているかを確かめながら進むので、普段の倍以上の時間がかかってしまう。

しばらく歩くと、今までの道よりは平坦な道に出た。
4人はホッと息をついて病院までの道を急ぐ。



「なぁ、花井」

「ん?なんだ?」



花井が崩壊した街を見回しながら歩いていると、巣山が隣にやって来た。



「良かったのか?」

「何が?」

「田島。怒ってたろ」



巣山が言わんとしていることを察したのか、花井は巣山の問いに答える代わりに苦笑した。



「まぁ、わからなくもないけどな。でも、あの理由じゃ、あいつは納得しないだろ」



保健室での田島の不満げな顔を思い出し、花井は困ったように眉をよせた。
花井自身、田島が納得していないことはわかっていた。それでも、花井は田島をメンバーには選ばなかった。



「…泉がいるからな。それに、巣山と阿部の力が必要になるだろうってのは本当だしな」



花井が残りのメンバーとして選んだのは、巣山と阿部だった。
その理由はいたって簡単。
部内では比較的力がある巣山は瓦礫を除けたり怪我人を運ぶ際、花井と共に重要なメンバーになる。
万一花井か巣山のどちらかが怪我をした場合、互いが互いを担げるかというのも重要なポイントである。

また、キャッチャーをしている阿部は普段から観察力が鋭く、周りの様子の変化を敏感に感じ取ることに慣れている。
この状況でどれほど発揮出来るかはわからないが、阿部が持つ冷静さと観察力は危険を回避するために必要になる可能性がある。

これらの条件で、花井は残り2人のメンバーに巣山と阿部を起用した。

しかし、そのグループ編成に文句を付けたのは田島だった。






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