不透明な僕らは、

□第4章
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「…多分、3年の先生だと思う」



瓦礫だらけの廊下を歩きながら阿部は職員室で見た光景を話始めた。



「休憩室の逆側に、小さい資料室があったんだ。多分、生徒の個人情報とか保管してんだと思う。…そこの鍵が開いてて、中で男の先生が棚の下敷きになって…」



普段は厳重に鍵が掛けられている部屋であったが、何か用事があったのだろう。たまたま資料室で作業をしていたその教師は、自分の血の海の中に倒れていたのだった。
保健室の前までくると、阿部は他の部員たちには黙っておくように二人に言った。



「…今までそこまで考えてなかったけど、俺達が全員生きてんの、奇跡なのかもな…」



ポツリと呟かれた巣山の言葉に沈黙が落ちる。
複雑な気持ちを抱えたまま三人は保健室の扉を開いた。
















「おかえりー」

「おぅ。食料持って来たぞ」


保健室の扉を開けば、既に帰って来ていた田島が明るい表情で出迎えてくれた。
疑問に思いながらも中へ入れば、浜田が眠っているはずのベッドに栄口たちが群がっているのが目に入った。



「もしかして目覚ましたの!?」

「おう!」



巣山の後ろからひょこっと顔を出して尋ねると、田島が元気よく頷いた。
水谷たちは荷物を置くと、バタバタとベッドに駆け寄る。
ベッドにはまだ顔色は悪いものの、いつもの穏やかな笑みを浮かべた浜田が上半身を起こして座っていた。



「わー!ホントだ!浜田大丈夫!?」

「おー、水谷。心配かけたな」



ペタペタと浜田の腕を叩く水谷の表情には嬉しさが溢れており、浜田も嬉しそうに頷きながら笑った。



「良かったっすよ、目が覚めて」

「ありがとな、巣山たちも無事で安心したよ」



先程の出来事もあったせいか、余計ホッとした巣山は安心したように頬を緩めた。
その様子を見ていた阿部は保健室を見回して首を傾げた。



「花井と西広はまだ戻ってきてないのか?」

「そういえば、まだみたいだね。モモカンも帰って来ないし…」



阿部の言葉に沖はきょとんとしたように入口に目を向けた。
ちょうどその時、入口の扉の磨りガラスに黒っぽい影が写り、ガラッと扉を開いて花井と西広が戻って来た。



「皆もう帰って来てたのか」

「おかえりー。遅かったね?」



扉から入って来た花井は少し驚いたように軽く目を見開いた。
栄口が二人を出迎えると、花井と西広は手に抱えたものを持ち上げて見せた。



「部室に行ってたんだ。救急箱と予備のベンチコートと、あとはタオルを持ってきた」

「あと、保冷バッグね」



どうやら二人は校内を軽く見回ったあと、部室の方にまで足を延ばしたらしい。



「二人だけで行ったの?危ないじゃん」



荷物を部屋の端に置く花井と西広に、栄口は厳しい視線を送る。
いくら余震が収まっているとはいえ、いつ何時また地震が起きるのか分からないのだ。

心配して怒る栄口に、花井は困ったように眉を下げ謝る。



「わりぃ。あと、勝手に悪いかとも思ったんだけど、皆のケータイ持ってきた」

「え!?マジ?サンキュー!」



花井は肩にかけていたスポーツバッグからジャラジャラと全員分の携帯電話を取り出した。
それに真っ先に飛び付いたのは水谷だ。
栄口はまだ不満そうな表情を浮かべていたが、とにかく全員無事また集まれたことにホッとして、まぁいいかと肩を竦めた。



「あー、やっぱ繋がんない。っていうか、アンテナが立ってないんだけど」

「俺のもだ。ここ電波悪いっけ?」

「いや、多分どこでも一緒だろ。俺のも立ってない」



各々自分の携帯電話と睨み合いを続けている中、西広は持って来た救急箱の中から真新しい包帯と錠剤を取り出した。
そして浜田のベッドに向かおうと顔を上げた時、ようやく浜田が目を覚ましていることに気がついた。



「浜田さん!目が覚めたんだ!」

「え!?本当だ!大丈夫っすか!?」



西広の言葉に花井もようやく気付いたのか、驚いたように目を見開いて浜田のベッドに駆け寄った。



「おっせー」

「あはは。俺なら大丈夫だよ。心配かけて悪かったな」



浜田のベッドの脇に立つ泉が呆れた顔で二人を笑い、その横で浜田も元気そうに笑っている。

いつも通りの二人の様子を見て、西広と花井は顔を見合わせると安心したように笑った。






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