不透明な僕らは、
□第4章
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真っ暗な空が段々白みを帯びていく。
夜が明けるのだ。
三つのベッドをくっつけて、その上で6人がぎゅうぎゅう詰めで眠っている。
入りきらなかった残りの4人は戸棚にあった予備の毛布を体に巻き付けて固い床に寝転がっている。
誰もが疲れ切っていて、お世辞にも快適とは言えないこの状況下でもぐっすりと眠っている。
その中で、泉はただ一人冷たい床に座り込んで、ベッドで眠り続ける浜田の傍に居続けた。
結局、昨晩泉は食事をしなかった。皆が残しておいてくれた白米は完全に水分が飛んでしまって固くなっている。
もう丸1日半、泉は何も食べていない。
けれど不思議なことに空腹は感じなかった。
そして寒さも感じない。
働き続けたストーブの灯油は夜中に尽きてしまった。割れた窓から忍び込む冷気に皆、体を寄せ合って眠りについた。けれど今、泉は寒さも何も感じなかった。
ただ唯一感じるのは、恐怖感。
目の前で崩れるように倒れた浜田の姿が、目に焼き付いて離れない。
あの時、まるで頭から冷水をかけられたように一瞬で恐怖が体を支配した。
初めて感じた『消失』への恐怖。
まさか失うことがこんなに怖いとは知らなかった。
もしも、このまま本当に浜田がいなくなってしまったら、自分がどうなってしまうのか想像もつかない。
「浜田…」
静かに眠り続ける浜田に、泉の声は届かない。
浜田の右手を握りしめる。
ほんのり温かいその体温に安心した。
「……早く、起きろよ…」
白い光がひび割れた窓から差し込まれる。
「………頼むから」
掠れた声で囁く泉の言葉は静かな部屋に消えた。
「あたしは一度街の方に下りてみるわ」
太陽が昇り、全員が起きたのを確認して百枝はそう切り出した。
全員驚いたものの、空腹感と疲れからか反応が薄い。
「助けを呼んでくるわ。皆は危ないから学校に残ってなさい」
そう言い残して、百枝は保健室から出て行った。その後をアイちゃんは当たり前のように着いていく。
まるで、部員達の代わりに百枝を守る役目を買って出たようだ。
「モモカン、大丈夫かな…?」
百枝とアイちゃんが出ていった扉を不安そうに見ながら沖が呟いた。
「モモカンは大人だし、大丈夫だよ。…きっと…」
西広が元気付けるようにそう言ったが、やはり同じように不安なのだろう。段々言葉は自信をなくし、小さくなっていく。
黙り込んでしまった輪の中で、ぐぅ、と篭った音が響いた。
「う!あ…ご、ごめ んなさ…!!」
青ざめる三橋の慌てっぷりに花井は笑った。
「腹減ったな。食料、探すか」
暗くなってしまった空気を変えるように明るく花井はハキハキと話す。
それに釣られたように皆の顔に笑みが戻っていく。
「つってもご飯はないし…」
空になった炊飯器を困ったように眺めながら巣山が呟く。
「学食とか残りもんねーの?」
ハイハーイ!と田島が元気よく挙手しながら首を傾げた。
「あーいうのって毎日業者が材料とか持って来るんだろ?余ったりしてねーんじゃねぇか?」
毎日昼休みが終わった後の売店には完売の文字が並び、午後の授業が始まると学食は早々と後片付けを始めることを思い出しながら阿部は腕を組んだ。
阿部の言葉に頷いたのは西広で、西広は天井を見上げながら何かを考えると、もしかしたら、と口を開けた。
「職員室とかって、先生たちのおやつ用の食べ物なんかがあるんじゃないかな?売店にも売れ残りがないことはないだろうし」
「職員室か。そうだな。来客用のお茶受けなんかもありそうだし、二手に別れて行ってみっか!」
胡座で座り込んでいた花井が西広の意見に何度か頷くと、早速二手に分かれるメンバーを上げだした。
「何かあるといけないし、三人ずつで行くか。じゃあ、阿部と巣山と水谷は職員室に。栄口と沖と田島は売店と食堂に。俺と西広はもう一回校内を一通り見てくる。泉と三橋はここで浜田さんを看ててくれ」
テキパキと役割を振り分けると、全員頷き、それぞれメンバーで目的地へと向かって出て行った。
8人が出ていくのを見送り、三橋と泉は椅子に座った。
ふぅ、と息をつく泉を三橋は心配そうな視線で見た。