不透明な僕らは、

□第4章
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「一先ず保健室に運びましょう!」

「巣山!足の方を持ってくれ!」

「わかった!泉、どいてくれ!」

「泉!どけって!運べないだろ!」

「泉!!」





何も、わからなかった





ただ理解出来たのは、目の前の






第4章―ツツミコム、ゼツボウノ
前編
















「出血は止まったみたいね…」



額に浮かんだ汗を拭いながら百枝は息をついた。



「傷の割に出血は多くなかったからよかったわ。これが栓の役割をしてたのね」



止血の時に浜田の脇腹から抜き出した瓦礫の破片を見遣り、百枝は苦笑いを零した。

浜田を運び込んだ保健室は地震の影響か、壁際に備え付けられてあったはずの4つのベッドが四方八方にずれ動き、薬品棚に収められていたはずの数々の薬は床に散乱していた。中には瓶が割れて液体が流れ出しているものもあった。

使えそうな消毒液や包帯を探しだし百枝が手当をしている間、暗くなってきた部屋の中で花井、水谷、巣山と沖の4人は片付けに勤しんでいた。



「監督!このストーブは使えそうですよ」



倒れていたストーブを起こしながら巣山が百枝に向かって叫んだ。
円筒形をしたストーブは少し凹んでいたが、灯油はたっぷりと入っており漏れている様子はない。
また幸いなことに、そのストーブは電気を使わない着火式のストーブだった。

花井と巣山でストーブを浜田が眠っているベッドの傍まで運ぶと、沖が倒れた机の引き出しから見つけ出したチャッカマンを百枝に渡した。



「モモカーン!水出た!」



ガラッと扉が開く音と共に冷たい風が入ってくる。
その扉から田島がひょこっと顔を出している。

保健室は外で怪我をした生徒のために直接外につながる扉がある。そしてとのすぐ傍に傷口を洗うための水道が設置されているのだ。
田島は水が出るかどうか確かめるために外に出ていたのだった。



「さっみー!!」

「ありがとね!」



バタバタと部屋の中に入ってきた田島はストーブの存在に気づくと、外に出ていて冷えた体を温めようとストーブに近づいた。
両手をストーブにかざす田島にニコッと笑って百枝は廊下につながる方の扉を見やった。



「阿部君たち遅いわね」



心配そうに百枝が呟いた瞬間、磨りガラスの向こう側に人影が見えた。
ガタタッと立て付けが悪くなった扉が開かれた。



「炊飯器無事でした!」

「ついでに数学準備室寄ってお茶持ってきましたー」



西広と阿部が一般家庭ではまず使わないだろう大きさの炊飯器を二人で抱えて入ってき、そのあとに続いて三橋がペットボトルを2本抱えて入ってきた。



「廊下は窓ガラスが割れて大変っすよ」



炊飯器をストーブの近くに置きながら阿部がため息を吐きながら言った。



「三橋、ガラス踏んだりしてねぇか?」

「だ、大丈 夫、だよ!」



三橋からペットボトルを受け取りながら阿部は三橋の体をパッと見渡した。
三橋はブンブンと首を横に振った。



「おおー!ご飯だ!」



パカッと炊飯器のふたを開けた田島が歓喜の声を上げた。
炊飯器の中の白米はすでに冷め切っており、水分が多少飛んでしまっているものの、丸1日以上何も食べていない田島達にとってはごちそうだ。



「早く食べよー!」



バタバタと腕を振る田島に百枝は苦笑いを漏らす。
騒いでるのは田島だけだが、やはり他の者達も早く食事にありつきたくてウズウズしているようだ。
一通り全員を見渡した百枝はにこりと笑った。



「そうだね!じゃあみんな、手を洗ってきましょうか!」



百枝が言うやいなや一番最初に田島と三橋が外へつながる扉に向かって駆けだした。
そんな二人に苦笑いしながら花井達も後へと続く。



「栄口!俺たちも行こう!」



栄口の隣に座っていた水谷が立ち上がりながらそう言うと、栄口はそうだね、と水谷に倣って立ち上がった。



「あ、水谷」

「どうしたの?」



水谷に続いて足を一歩踏み出した栄口はそのままの体勢で立ち止まった。



「先に行ってて」



栄口がニコッと笑いながらそう言うと、水谷は首を傾げたが、わかった、と頷いて外へと向かった。
外へ向かう水谷を見送ると、栄口は踏み出しかけていた足を戻し、踵を返した。



「泉」



靴を履いているせいか、足音は響かなかった。
栄口は静かにベッドに近寄ると、その傍に座り込んでいる泉の横に立った。



「手、洗いに行こう?」



促すように優しく栄口は声をかけるが、泉は背中を丸めたまま動こうとしない。
浜田が眠るベッドの掛け布団を握りしめたまま泉はただジッとしている。

その泉の様子に、栄口はつらそうに眉を歪めて下唇を噛みしめた。



「泉もお腹空いてるんだから、食べなきゃ」

「…いらない」

「でも…」



まるで疲れ切ったようにゆるゆると首を横に振る泉に、栄口はなおも口を開こうとした。しかし、それを遮るように栄口の肩にポン、と手が置かれた。



「今はまだそっとしておきましょう」

「監督…」



肩におかれた手の主に視線を向けると、そこには辛そうに笑う百枝がいた。
栄口はそれ以上何も言うことが出来ず、小さく息を吐くと頷いた。














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