不透明な僕らは、

□第3章
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「また、揺れてる…」



明るくなった色のない空の下で、微かに揺れる大地に座り込んだまま呟く。

もう何時間こうしているだろうか。

辺りを見れば、皆不安そうな表情をしている。


大地が一回揺れる度に、心の中にある恐怖が膨らむ。





どうか、無事でいてくれ









第3章―スミワタル、灰色ノソラ―










「なんか、目が痛くなってくる」



空をじっと眺めていた田島はムニムニと目を擦った。その頭をポンポンと叩いて花井はため息をついた。



「気持ち悪いよな…」

「うん、なんで空の色がなくなったんだろ」



空を見上げる花井の横で、沖が不安そうに呟く。

見上げた空は、明るいにも関わらず、灰色で覆われている。

雲はない。

ただ、色がない。それだけ。





夜が明けて、光が戻った空には以前の澄み渡る青い色はなかった。ただ広がる灰色のその空に、白い丸いものだけがポツリと浮かんでいる。

あれが、太陽だ。

無彩色の空はまるで、自分達の世界の終焉を見ているようだ。



明るくなって、百枝は部員達をグラウンドの真ん中に集合させ、自分は様子をみるために学校の方へと一人で向かった。
底冷えする寒さに、それぞれ自分のベンチコートを着込み出来るだけ体を寄せ合う。それでも防ぎ切れない寒さに体を摩って耐える。

グラウンドから見える景色は畑しかなく、地震の被害もよくわからない。

ただ、ここからでも唯一見える田島の家は、壊滅状態だった。







「じーちゃんとばーちゃんは一昨日から町内会の旅行に行ってんだ」



壊滅した家を見ても、田島はそれほどのショックは受けずに済んでいた。不思議に思った花井が大丈夫か、と声をかけた時、田島はそう言った。



「兄ちゃんたちはまだ帰ってきてないだろうし、車がないからお母さんは買い物にでも行ってたんだと思う」



地震が発生した時には田島の家には誰もいなかったのだ。だからと言って全員が無事かどうかはわからないが、少なくとも家の下敷きになっている人はいないのだ。それだけでも安心できる要素にはなる。



「そっか。…でも、無理はすんなよ」



この地震の影響で、携帯は当たり前のように使えない。
連絡が取れない今、学校へ様子を見に行っている百枝の帰りを待つことしかできない。
家族の安否がわからず不安な気持ちは皆一緒だ。



「ん」



田島は頷くと、ほんの少し花井に擦り寄った。



その様子を見てほほえましさにクスッと笑って栄口は隣に座る泉に顔を向けた。



「泉…?」



栄口は訝しげに眉を潜めた。
泉は俯いたままじっと地面を見つめていた。

栄口の呼びかけにも気付かないようで、まるで地面を睨み付けるようにして動かない泉に栄口は困惑したように顔をあげた。
すると、ちょうど泉の真正面に座っていた三橋と目が合った。三橋は心配そうにワタワタと栄口と泉を見ていたが、何かに気付いたように口を開いた。



「浜…ちゃん…?」



三橋の小さい呟きに、泉はビクッと反応し、勢いよく顔を上げた。
驚いた泉の真っすぐな視線に見つめられた三橋はオドオドと視線をさ迷わせた。



「…の、こと かな…と」



ご、ごめんなさい、と小さくなっていく三橋に気付いた泉は黙ってまた俯いた。



「そういえば、浜田さんはバイトだっけ…?」



俯いた泉の顔は髪に隠れてよく見えない。けれど、その不安は空気を伝わって栄口に届く。
膝を抱えて座る泉はぎゅっと拳を握っていて、その姿はいつもより小さく見える。



「きっと、大丈夫だよ」



栄口には、そう言うことしかできなかった。
ただの気休めでしかない言葉であることは自分でもよくわかっている。それでも泉はコクッと小さく頷いてくれた。

そんな泉の姿に泣きそうになりながら、栄口は色のない空を見上げた。















「今家に帰るのは危険だわ」



戻って来た百枝は深刻な顔で状況を説明し始めた。
その厳しい表情に、誰もが不安を覚え息を飲んだ。





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