不透明な僕らは、

□第2章
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「……いってぇ……」



体中がズキズキと鈍い痛みを訴える。
ぼんやりとした頭をなんとか回転させて、目を開けろ、と体に指示を出す。

ノロノロと緩慢な動きで開いた瞼はぼやけていて、風景は何も見えない。


何度も瞬きを繰り返しても一向に何も見えないことに不安を覚える。

ふと、冷たい風が吹いて思い出した。



ああ、今は夜だった。



凍るような冷たい風に、体の感覚は既に無くなってしまっている。その割に消えない体の痛みは打ち付けたせいなのか、それともこの寒さのせいなのかよくわからない。


ただわかるのは



何も見えない暗闇だけ







第2章―トドロクハ、黄色イヒメイ―












「…っつ………」



横から微かな呻き声が聞こえ、ジャリ、と砂が擦れる音がした。誰かが起き上がったようだ。



「ってぇ…。なんだったんだ…?」



どうやら起き上がったのは花井だったらしい。
困惑した声を上げている。



「花井、大丈夫か?」

「泉か?あー、なんも見えねえ」



花井の声が聞こえる方に首を向けてはいるが、合っているかはわからない。



「ん〜…?寒い…ってか痛い…」



ボケッとした声が恐らく花井の右側から聞こえた。水谷も気がついたのか、人が動く気配がした。



「オメーはこの状況でもクソレだな」

「えぇ!?なに突然!…ってか目茶苦茶暗いじゃん!どうしたの!?」

「少し落ち着け、水谷」



慌てふためいているであろう水谷の様子が簡単に想像出来て笑えた。そのお陰か、少しリラックス出来たようだ。
はぁ、と花井がため息をついた音がした。目が見えない分聴覚が研ぎ澄まされているみたいだ。



「巣山と西広は大丈夫か?…つってもどこにいんのか見えねえんだけど」



そう言いながら花井は適当に腕を地面にペタペタくっつけて二人を探している。
泉も倣って適当に手を動かす。途中、花井の手が掠めた気がしたが、とりあえず巣山と西広を捜す。

トンッと何かに当たって、泉はそれをペタペタと叩く。すると、モゾッとそれが動いた。どうやら巣山か西広らしい。
元々外野側にはこの5人しか居なかったのだからどちらかなのかは当たり前だが。



「ん…?誰…?」

「西広か?俺だよ」

「泉…?」



西広が起き上がる気配がしたので、泉は西広を揺さぶっていた手をどけた。
ぼんやりしているのか、西広は無言で辺りを見渡しているようだ。



「巣山発見!」



背後で水谷が明るい声を出した。
それに続いておー、と幾分掠れた巣山の声が聞こえた。

どうやら外野陣は全員意識を取り戻したらしい。



「全員無事か?怪我してる奴とかはいねえか?」



全員が落ち着いたところで花井が声をかけた。



「打撲はすごそうだけど、後はなんともねーと思う」

「俺もー」



泉を筆頭に、全員が自分の体の状態を触りながら確かめていく。
多少の擦り傷や打撲はあるが、大きな怪我を負った者は誰もおらず、とりあえずは安心して花井はホッと息をついた。



「グラウンドで良かったね」



不意に西広が安心したような声を出した。



「凄い地震だったから、建物の中にいたら棚とかの下敷きになっちゃうし、最悪建物自体が潰れる可能性もあったから」

「うわぁ、じゃあ俺らラッキーだったんだ!」

「たいした怪我もないしな」



たしかに、グラウンドには倒れるようなものなど何もなく、しかもここは回りが畑だ。
もしかしたらここ以上に安全な場所はなかったかもしれない。

全員が西広の言葉に納得する中、泉は冷水をかけられたように凍り付いた。

















「ワリ、今日バイト」



ついさっき聞いた言葉。
残念そうに眉尻を下げて笑っていた。
部活頑張れよ、と手を振って別れた。


















浜田は、バイトだ。













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