不透明な僕らは、

□第1章
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20XX年 2月29日



4年に1度しかやってこない、そんな日に



1000年に一度の悪夢が訪れた。













不透明な僕らは、
















「管理室、応答願います。こちらGOJ5007。管理室、応答願います!」



機械的な声が、耳障りなノイズ混じりに暗い部屋に響く。
青い液晶パネルに顔を照らされた木之下裕也は近くに転がしていたヘッドフォンを直ぐさま装着し、目の前に所狭しと並ぶキーボードのボタンの一つを押す。



「GOJ5007、こちら管理室。どうぞ」



ヘッドフォンと一体になったマイクに声を吹き込むと、木之下はじっと画面を見つめたまま相手の反応を待った。
画面にはいくつもの立体グラフが様々に形を変えながら映し出されている。



「こちらGOJ5007。1727時、地核に反応を確認」



聞き取り辛い声が伝えたその言葉に、木之下は一瞬で顔色を変えた。

直ぐさま凄い勢いで目の前のキーボードを叩き始める。視線は青く光る画面から離さないままだ。



「詳細を」

「はい。地下一万二千メートル地点で大規模な『揺れ』を感知。巨大な地震発生の恐れ有り」

「範囲は」

「それが…」

「なんだ?」



言いよどむ声の主に、木之下は苛立ちを隠さないままに詰問するように先を求めた。
地震が来るのであれば出来るだけ速くその範囲や強さを特定しなければならない。そうしなければ被害を最小限に抑えられないからだ。


そんな基本中の基本、わかっているだろうに。何をモタモタしているんだ。


木之下はチッと舌打ちしたいのを堪えてキーボードを叩き続ける。



「早く言え!」

「は、はい!範囲は全世界。予想震度はマグニチュード10.5」

「何だと…?」



今、声の主は何と言った?



「繰り返します。地下一万二千メートルにて大規模な揺れを確認。巨大な地震が発生する恐れ有り。範囲は全世界。予想震度はマグニチュード10.5」



怒鳴り付けるように繰り返された言葉に、管理室にいた人間全ての動きが一瞬止まった。
シンと静まりかえるその暗い空間に、機械が動く低い地鳴りのような音と、木之下が打ち続けるキーボードの音だけが響く。



「木之下チーフ…。予定時刻は…」



タンッと勢いよく最後のボタンを押し付けた木之下は、青い画面をじっと見つめる。
画面上では、いくつもの複雑な式が上から下へ流れるように動いていく。

椅子に腰掛ける木之下の右後ろから、まだ若い20代後半の男が微かに震える声で木之下に尋ねた。

画面上で流れる数式。

それが木之下が今まで手を休める間もなく打ち続けたこの地震に関する情報を纏めるものであり、その情報から得られる地震到達予測時間を現在コンピュータが計算しているのだ。

数秒経って、画面中央に赤い時計が出現した。

一秒一秒、ゆっくりと減っていく時間に木之下は目を見開いた。

背後に立つ部下が息を飲んだ音が聞こえた。










「地震発生まで――」















コンピュータから、機械音で作られた女性の声が管理室に響き渡った。
誰もが耳をすませてその声に耳を傾けると同時に、管理室中央にある巨大液晶パネルに顔を向けた。
一瞬で画面は暗くなり、木之下のコンピュータに現れた時計と同じものがその液晶に写し出される。









「残り1分」












作られたその声は、無情な事実を伝えた。
















20XX年 2月29日 17:36





世界は崩壊した。












第1章―ハジマル、オワリノ






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