休息は君の隣で。

□魔王と英雄
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たとえばこの世に神がいるとして。

その神様が、あらゆる存在になんらかの役割を与えているとしたら。



神とはなんと、残酷な人なんだろうか。










魔王と英雄 











昔、カトリアの国はそれはそれは美しい国でした。
大地は青々とした草花に覆われ、空はいつでも青く、天高くまで澄んでいました。
小鳥達は木々の枝の上で美しい音楽を奏で、小川のせせらぎに合わせるように魚達はダンスを踊っています。
そんな美しいカトリアで、人々はとても幸せに暮らしていました。

ところがある日、闇の世界から突然魔王がやってきました。
魔王はその恐ろしく強大な力で大地に咲く草花を枯らし、空を灰色の雲で覆ってしまいました。
小鳥達は魔王から逃げるようにカトリアから姿を消し、魚達は魔王の力のせいで小川で死に絶えてしまいました。
のびのびと暮らしていた動物達に代わり現れたのは、魔王が闇の世界から連れて来た真っ黒な体をした魔物達です。
魔物は人を襲い、食べてしまいます。そのため、人々は街に防壁を作ってその中で怯えながら暮らさなくてはいけなくなってしまいました。

しかし、人はただ怯えるだけではありませんでした。

人の中には勇気ある者もいて、魔王を倒すために旅に出る者もいたのです。
人はその勇気ある旅人を、勇者と呼び尊敬しました。
勇者は街から出て、魔物と戦い、世界の最果てに棲むと言われている魔王の城を目指します。

ところが、魔王は人にはないとても強い力を持っているので、勇者といえど、今まで魔王に勝てた人は一人もいません。それどころか、魔物に殺されてしまう勇者たちも数多くいました。
そのため、今では勇者になろうとする者はなかなか現れなくなり、人々は諦めたように細々と暮らしていく他なくなってしまいました。


そんな時、とある小さな村で一人の少年が剣を手に取り父親に向かって言いました。



「俺が魔王を倒して、世界を救うよ」



少年の母親は必死に止めようとしました。なぜなら今まで一人も魔王討伐へ旅立って帰って来たものはいないからです。
大切な息子をみすみす死にに行かせるようなことはしたくありませんでした。
しかし、少年は母親の説得には応じず、ついに旅に出てしまいました。



少年は村一番の剣の使い手でした。
そのため、魔物を倒すことなど朝飯前です。
旅は順調に進み、いくつもの街を越え、深い森や、枯れた川を越え、とても強い魔物が棲んでいるという高い山にやってきました。

その山は、魔物が棲みつくまではたくさんの動物たちが暮らしており、人々もおいしい木の実などを採りに来ていました。
しかし、魔物が棲みついてしまった為、今では人も動物もこの山に近づくことが出来ません。
正義感が強い少年は、魔物を倒して動物たちが戻って来られるようにしようと思い、山を登ることにしました。



山の半分くらいまで来た所で、少年は近くで物音がしたことに気がつきました。
どうやら、近くに何かがいるようです。

魔物かもしれないと思った少年は、腰にある剣を手に持って物音がする方へ、そおっと近付いて行きます。

身の丈程もありそうな垣根の向こうを覗き込んでみると、なんとそこには小柄な男の子がたった一人でポツンと立っていました。



「一体ここで何をしているんだい?」



魔物が出る山に一人でいるのはとても危険です。
少年は剣を鞘に戻して男の子に話しかけました。
男の子はびっくりした表情を浮かべると、小さく首を傾げました。



「…君も勇者?」

「もしかして、君も?」



男の子は少年よりも一回り以上小さくて、武器も持っている様子はありません。
少年は、こんなに小さな男の子も自分と同じ勇者なのかと思うと、驚いて仕方ありません。



「君は武器も持っていないじゃないか。危ないから、家へ帰った方がいいよ」



戸惑ったようにキョロキョロしていた男の子は、急にしょんぼりして俯いてしまいました。
少年は心配になって、どうしたのか尋ねました。
すると、男の子は寂しそうにぽつりと呟きました。



「お家、嫌だ。帰っても誰もいない」

「お父さんとお母さんは?」

「いない」



男の子は寂しそうに言うと、ポロポロと涙を流して泣き出してしまいました。
少年は驚きましたが、男の子が可哀相で、頭を撫でてあげました。少年は妹たちの頭をよく撫でてあげていたのです。

すると、男の子は顔を上げてニッコリ笑いました。



「いい奴だな。俺、お前のこと好きだ」

「ありがとう」



少年もニッコリ笑って頷きました。



「一緒に山をおりよう。もし寂しいなら、俺の村に来たらいいよ」



男の子は喜びましたが、すぐに悲しそうな笑顔を浮かべました。



「行きたいけど、きっと俺はそこでは暮らせない」

「どうして?」

「俺は嫌われ者だから」



男の子はまた泣きそうです。
少年は男の子に笑って欲しくて、一生懸命考えます。



「それじゃあ、一緒に旅をしよう」



少年は、我ながらいい考えだと思いました。
何故なら男の子はそのアイディアにとても喜んだからです。

そして二人は約束すると、早速山を下り始めました。



男の子と山を下り始めてから、少年は不思議な体験をしました。

それは歩き始めて半時が経った頃のことです。
突然二人の前に山の魔物が現れたのです。
少年は、自分より小さい男の子を守ろうと魔物へと剣を向けました。魔物は腹を空かせているのか、唸り声を上げてとても怒っている様子でした。

魔物の威圧感に負けまいと少年が剣をしっかり握ると、突然魔物が唸り声を消してスッと目を細め、そのまま何もせず山の奥へと消えてしまいました。

一体どうしたんだろうと疑問に思いましたが、少年は男の子を守らなければなりません。何事も起こらずホッとしました。
そして二人は再び山を下り、そのまま無事に山を下りきることが出来ました。


魔王の城まであと少しです。




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