休息は君の隣で。

□12/19 AM0:00
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ある寒い夜、俺はいつものロードワーク中に不審人物を発見した。



「……何やってんの?」

「ん〜?水分補給係?」




街灯もポツリポツリとしかない暗い夜道に変な奴がいるなぁ、と思いきや、それはよく知る人物で。
思わず足を止めて声をかければ、そんな答えが返って来た。



「……ケーサツ呼んでくる」

「えぇ!?それ酷くねぇ!?」



本気で焦ったようにデカイ図体をワタワタさせるそいつを見て、はぁ、と溜息をついた。
走り込んでいたせいで上がった息は、冷たい空気に冷やされて白く漂っている。
走っていたお陰で体の中は温かいが、顔に触れる空気は鋭く冷たい。

そこでふと、あることに気がついた。



「オメー、寒くねぇの?」

「めちゃめちゃ寒い」

「馬鹿だろ」



目の前の不審人物はかなり薄着だったのだ。
真顔でそう言う奴の鼻の頭は真っ赤になっている。
一体こんな夜中に何をしているんだか。本気で不審人物だ。



「あ、そうそう。はい、これ差し入れ」



少し厚手のオレンジ色の上着のポケットから、有名な飲料メーカーの柄が描かれた缶を取り出して、そいつは俺に差し出した。



「…どうも…?」



突然の差し入れに一体どう反応していいのかわからず、取りあえず礼を言う。
さっきの水分補給係とはこのことだったのか、と今更ながらに納得した。



「アハハ。混乱してる混乱してる」



ニコニコと楽しそうに笑うコイツに腹が立ってきて、向こう脛を蹴飛ばしてやった。

痛みに呻くそいつを見下ろして、あることに気付いた。
しかしその『あること』を確かめようと思っても、今の自分にはその手立てがない。

そこで、今だ脛を摩っているコイツを使ってしまおうと思った。



「ケータイある?」

「え?あるけど…」

「ちょっと貸せ」



今の自分に必要なのはケータイ。
ジャージ一つで家を出て来た俺は、生憎ケータイを持っていなかった。
そこで、差し出されたケータイを受け取ってサイドボタンを押す。

暗かった小さな画面に、パッとデジタル時計が表示された。

それを見て、コイツの一連の意味不明な行動の理由に繋がった。



「どうかした?」



俺がケータイで何をしているのかがわからないのだろう。
キョトンとした顔で首を傾げている。

その間抜け面に向かってケータイを投げ返した。



「コレ、サンキューな」

「どういたしまして」



先程貰った缶を持ち上げて改めて礼を言う。
それだけで嬉しそうに笑うから単純だ。



そんな単純で馬鹿な奴だけど、

今だけは喜ばせてやろうと思う。

今だけだけどな。






「あと、おめでとう」






そう言った瞬間のアイツの顔と来たら、こっちが恥ずかしくなるくらい、締まりがなかった。

それでも、言って良かったと思うのは、多分今日が特別な日だから。





「うん。ありがとう」






あんまり嬉しそうにこっちを見るその笑顔が照れ臭くて、缶を開けてグイッと飲んだ。



「…ぬっる」

「え!?あー…あ、温めてあげたの!」



渇いた喉に流れ込んだ常温よりも少し低めのそれは、中途半端にぬるくて、思わず眉を潜めた。

すると明らかに今作っただろうとしか言えない変な言い訳をするそいつに、思わず笑いが洩れた。



「熱いミルクティーが飲みたい」



そう言った瞬間、瞬く間にパッと表情を明るくしたそいつに、また笑みが浮かぶ。



「お前ん家行くぞ」



そう言ってさっさと歩き出せば、後ろからは慌てて追いかけて来る音が聞こえた。

そういえばロードワークの途中だったな、と思ったけれど、まぁ今日くらいはいいだろう。




何て言ったって、あったかいミルクティーと、



あったかい笑顔が待っているのだから。






小さな幸せを、君に。







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