頂文。
□多分それが僕等のカタチ
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「浜田ー、デートしたい」
それはある土曜の朝のコト。前の日から浜田の部屋に泊まりに来ていた泉が、朝食のトーストをかじりながら言った。
「別にいいケド……って、え?!」
朝の情報バラエティー番組を見つつコーヒーを啜っていた浜田は適当に返事をしてから慌てて聞き直した。
「…ったく、だからー、デートしようって言ってんだよ」
「デー、ト」
「ヤならいいケド」
「嫌なんてとんでもない、喜んで!」
ぶんぶんと首を振って浜田は勢いよく言った。
―デートしよう
と泉が言った。ヤリが降るかもしれない、と浜田は浮かれる心の片隅で半ば本気でそう思ったのだった。
「ドコ行こーか」
「んー…」
善は急げと言うコトで、朝食を食べて身支度をして外へ出た。一番近くの駅までは歩いて20分。歩きながら浜田が泉に聞いた。
「ドコでもいい」
「じゃあ、何したい?」
「んー、何でもいい」
「そっか…」
泉の返事に浜田は困った。
カラオケ?ボーリング?映画?ショッピング?遊園地とか?
頭をフル回転させ、浜田が考え込んでいるので、二人の間の会話が途切れた。泉が呟く。
「…なんか話せよ」
「お、おう」
「……」
「……」
ふと、浜田は思った。泉と何話しせばいいんだろう、と。
同じクラスだからクラスのコトは別段話す必要はないし、昨日から一緒にいるから泉の部活や浜田のバイトの近況はお互い知っている。
そもそも二人の間に普段から会話は少ない。基本的に同じ空間でごろごろしながら別々のコトをし、時たまどちらかがテレビにツッコんだりして二人で笑っているのだ。
浜田が考え込んでいると女の子とすれ違った。
「今の子、可愛くね?」
「デート中」
「あ、ハイすみません」
浜田が軽く言ってみたのだが泉に一蹴された。
「オレ、何話せばいい?」
「……デートっぽい話」
困り果てた浜田がそう言うと、さらに困る答えが返って来た。
デートっぽい話とはなんぞや。
今日の泉はやたらデートという言葉を使う。浜田は違和感を感じた。恥ずかしがり屋な泉は普段こういう言葉を言われるのを嫌がる。まして自分から言うのは尚更だ。
「もしかして泉さ」
「なんだよ」
「デートしたい、じゃなくて、デートしてみたい、んじゃない?」
「…なっ」
ギクリ、と泉の体が一瞬強張った。浜田は、図星か、と思った。泉はわかりにくそうでわかりやすいのだ。
「じゃあ、帰ろう?なんか今日の泉あんまり楽しくなさそうだよ」
浜田が優しく言うと泉がそんなコトない、と首を振った。
「それに泉、人込み嫌いだろ?疲れて明日の部活に響かない?」
さらに聞くと泉が立ち止まった。
「…でも」
「何で、デートしてみたいと思ったの?」
泉の顔を覗き込むように浜田が目線を下げると、泉がふいと顔を逸らした。
「倦怠期みたい、って言われたから」
泉が浜田と目を合わさないまま言った。
「倦怠期?」
「水谷に言われた。なんか、アイツらいろんなトコ一緒に行っててさ。オレらは家ばっかりいて、あんましゃべらないなんて倦怠期みたいだって。飽きないの?って聞かれた」
そう言えば、水谷と栄口も付き合ってるんだっけ、と浜田は思った。周りに言えない恋愛をしている浜田達は自分が付き合っている相手のコトを他人に言えない。そのなかで同じような状況にある泉、水谷、栄口は仲がいい。あの二人に触発されたのか、と浜田は納得した。
「オレは別に飽きないケド、水谷と栄口みたいなののほうが恋人っぽいし、浜田もそっちのがいいのかなって思って今日言ってみた」
でも、デートって何していーのかとか何喋っていいかとか全くわかんなくて、あんま楽しくない
と、泉は横を向いたまま呟いた。顔は赤い。浜田は思わず泉を抱きしめたくなる衝動を辛うじて抑えた。
やっぱり泉はわかりやすい、と浜田は思った。
「オレは…イヤ、オレも飽きないよ」
浜田が言うと泉は浜田のほうを向いた。浜田は続ける。
「ずっと喋ってるのもいいけどオレは二人で黙ったままで心地いい関係好きだよ」
仲悪い人となら黙ったままはツライだろ
と浜田が言うと、泉はコクリと頷いた。
「水谷と栄口の関係とオレらの関係が違うからって不安になることないよ。オレは別に泉といられればドコでもいいから無理しないで」
「わかった。…悪ィ、やっぱ部屋戻ろう」
「そだね」
「…浜田」
「ん?」
「部屋戻ったらひなたぼっこしたい」
「おー、いーねぇ」
晴れた土曜の昼。浜田と泉は二人が一番落ち着く場所へ行く為に元来た道をゆっくりと引き返していった。
多分それが僕等のカタチ
END
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