君と世界と、僕。

□第13話
1ページ/3ページ





「……クソあちぃ」



額からあごへ汗が幾筋も流れ落ちる。目に入っては微かな刺激を眼球に与え、口に入ってはしょっぱさを舌に与える汗は拭っても拭っても絶えず滴り続ける。

ビエラ火山は火山というだけあってめちゃくちゃ暑かった。とはいえまさか火山の内部を通ることになるなどと誰が予想しただろうか。



「あんのクソ賢者…最初に言っとけよ…!!」



暑さに苛々しながら呟く阿部の後ろでは三橋がフラフラと覚束ない足取りで歩いている。



「三橋、水飲んどけ」

「あ、べくん…。ありが…と」



バッグから水筒を取り出して三橋に渡すと、三橋はくたびれた様子で蓋を開け、中の水を数口飲んだ。それを確認した阿部は自分の水筒を取り出して水分を補給した。
水筒の蓋を締めながらまだ高くに存在する火口を見上げて、阿部はため息をついた。















二手に分かれるに当たって戦闘能力の他に重要だったのは、町の存在だった。
回復魔法が使えるのはこのメンバーの中では三橋だけだった。沖も少しの回復は出来るが、それはほんの気休め程度である。そうなると必然的に沖と三橋は分けられ、三橋は町から遠い方のダンジョンに配置される。

ティラナ湿原は小さな村の東に広がる湿原で、少しの手間をかければ町を利用しての回復が十分出来るダンジョンだ。
一方ビエラ火山の方は回りが岩だらけの平原で町は少し離れた場所に一つしかない。そういった事情から、三橋は必然的にビエラ火山に向かうグループに配置された。

他のメンバーは沖以外はどちらに向かってもよかったのだが、放っておけば平気で自分の限界を超えることをする三橋だ。阿部は無理をさせないよう三橋と同じグループに入りたいと申し出た。他のメンバーもそれをわかっての上で、花井、田島、西広と三橋が少しでも関わりやすく、また同時に阿部のストッパーが出来るメンバーにした。



「あそこに窪みがあるぞ。ここよりか涼しそうだし、あそこで休もう」



先頭を歩いていた花井が窪みを指差しながら振り返った。
それに他のメンバーは頷き、その場所へ心なしか急ぎ足で向かった。



「まさか火山の中から火口へ向かうことになるとはな」



ちょうどよく転がっていた岩に腰掛けた花井が汗を拭いながら大きく息をついた。



「そうだね。てっきり外側から登れると思ってたのに、まさかあんなに絶壁だったなんてね」



水分補給をしながら西広は外から見たビエラ火山の表面を思い出した。

昔何度か噴火したことがあるのか、ビエラ火山の表面は真っ黒なマグマの固まりで出来ていた。ビエラ火山は標高自体はそれほど高くないのだが、斜面がかなり急だった。多少の凹凸はあるものの、ロッククライマーしか登れないような外壁を花井たちが登れるはずもない。

幸いなことに内部へと通じる入口を見つけたため、そこから中へ入り込んだのだが、いかんせん中は酷く暑かった。活火山であるビエラ火山の地下では恐らくマグマがうごめいているのだろう。登っている最中に噴火しないことを祈るばかりだ。



「この暑さでもモンスターは出るんだもんなー。やんなっちゃうよな!」



田島も暑さにやられているのだろうか、いつもの元気はそれほどなく、冷たい地面にベターと体を横たえている。
そんな田島に、水ちゃんと取っとけよ、と花井が水筒を渡し、田島は水をゴクリと飲んだ。



「だいたい3合目くらいまで登ったか。……今日はこの辺りで野営しよう。三橋の体力も限界だろうし」

「そうだな」



火口までの距離を目測しながら阿部が提案すると、他のメンバーの様子を一通り見渡して花井が頷いた。
それを聞いて三橋はビクッと背筋を伸ばして目をパチパチと瞬いた。



「オ、オレ! 平気!!」



阿部の発言に、疲れているのは自分だけなんだと勘違いした三橋は焦ったように腕を振り回した。暑さのせいもあっていつもより沸点が低くなっているのだろう、その三橋の様子に阿部は簡単にキレた。



「馬鹿か!疲れてんの隠す意味がわっかんねーよ!大体、回復要員のお前が倒れたら俺達が困るんだよ!」

「あーもー、落ち着けって」



頭を冷やせとでもいうように花井は水を染み込ませたタオルを怒鳴りまくる阿部の顔にベチッと投げた。
阿部はいらついたため息をつくと、そのタオルを畳んで顔にのせた。水を含んだタオルはヒヤリと冷たく、熱くなった頭と目を冷やしてくれる。その気持ち良さのせいか少し苛立ちも収まったようだ。



「疲れてるのは三橋だけじゃないよ。オレだって正直しんどいし」

「もちろんオレもな。だから今日はここで野営して、明日いっぱい進もうぜ?」



今にも泣きだしそうに目や鼻や口から水を出している三橋に西広と花井が落ち着かせるようにゆっくりと話した。
三橋も落ち着いたのか、泣き止むとコクリ、と頷いた。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ