君と世界と、僕。
□第9話
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ギルドを後にした6人は一先ず宿屋ヘ向かった。登山とモンスターとの戦い、そして連日に及ぶ野宿、と皆疲れはピークに達していた。
宿に着くやいなや泉はベッドにダイブした。
小さな町のためか宿屋には2人部屋しかなく、3部屋取ってそれぞれ休むことになった。泉と同室になったのは栄口であり、栄口もまた泉と同じように部屋に荷物を置くとすぐにベッドに横になった。
「結構ハードな旅になったね。泉初めてだったから疲れたでしょ」
「そうだな。丸2日間試合ぶっとうしでやった感じ」
ある意味リアルな表現に栄口は吹き出した。
「そりゃキツイね。寝ちゃう前にシャワー浴びてきなよ。部屋についてるみたいだよ」
「そうする。汗と泥でベトベトだし」
サンキューな、とシャワーを譲ってくれた栄口にお礼を言い泉は浴槽へと向かった。2日間風呂に入っていないせいか、体中が気持ち悪い。
熱いシャワーを浴びると、汚れとともに疲れも少し取れた気がした。しかしそれと共にさらに睡魔が襲ってくる。早めにシャワーを切り上げ栄口と交代する。ベッドに横たわるとすぐに泉は深い眠りへと落ちていった。
「おーい、泉〜!栄口〜!」
コンコン、とノックの音と一緒に聞こえてくる声で泉は目を覚ました。扉の方に目をやるとちょうど栄口が扉を開けるところだった。
「もうすぐ夕食だってさ」
扉の向こうに立っていたのは巣山と花井だった。二人ともさっきまで寝ていたのか、眠そうに欠伸をしている。
「どうせお前らも飯食ったらすぐ寝るだろ?」
「だからその前に明日の打ち合わせしとこうぜ」
巣山と花井が交互にそう言うと、栄口もそうだね、と頷いた。泉もベッドから下りて伸びと欠伸をすると、扉に向かった。
食堂では西広と田島が2つのテーブルを繋げて一つにして待っていた。そのテーブルに栄口が持ってきた地図を広げて皆で回りを囲むようにそれぞれ椅子に座った。
「ミリタルはここで、賢者がいる場所はヴィリウスを越えた南東にある森の奥だから…ここだね」
栄口は指をヴィリウスから右下に動かし、緑色で彩られた一帯を示した。そこはちょうどヴィリウスとヒゥカザス山とで三角形が作れる位置にある。
ミリタルはヒゥカザス山とヴィリウスとの中間付近に存在する町だ。そのため、ミリタルからでもヴィリウスからと変わらないくらいの距離だ。
「この町から直で行った方がいいな」
「そうだね」
花井が地図を見ながらミリタルからとヴィリウスからの森の距離を目測して言った。栄口も頷き、ここでは馬車の手配はしてくれるかな、と宿の人の姿を探し始めた。
「なあ、この森って」
突然口を開いたのは巣山だ。なんだ、とみんなが巣山を見、宿の人を探していた栄口も巣山に目を戻した。
「この森って、『還らずの森』じゃないか?」
「『還らずの森』?」
なんだそれ、と巣山以外の表情が疑問の色に染まった。巣山は知らないのか、と少し驚いた顔をしながらも説明し始めた。
「還らずの森は、あまりにも木が生い茂っているせいか光が全く地上に届かない森だそうだ。しかも、………出るんだよ」
「………………出るの?」
「………………出るんだ」
頬を引き攣らせて笑う栄口に、巣山も少し顔色を悪くしながらも頷いた。何が、とは聞かずともみなわかる。
「それって、モンスターとかじゃないのか?」
アンテッド系のとか、と苦笑いを零しながら花井が巣山に尋ねたが、巣山は力無く笑って首を横に振った。
「元々モンスターも結構いるらしいけど、まぁ…『還らずの森』って言うくらいだからさ。入ったが最後、その人は森から帰ってこず、幽霊となって森をさ迷い続けるんだってさ」
「やっぱ何でもありだなぁ」
感心したように笑って言う田島を信じられない、という表情を見せているのは栄口だ。どうやら栄口は幽霊系は苦手らしく、先程から表情が固い。
「おや、お客さんたちスィリパーの森へ行くのかい?」
熱々出来立ての料理を運んで来てくれた宿の女将さんが、巣山たちの話を聞いていたのか驚いたように話かけてきた。
「スィリパーの森?」
「別名還らずの森とも言われてるがね。ほら、さっさと地図をおしまい。話はしてあげるからまずは自慢の料理をお食べよ」
熱いうちが1番美味しいからね、と威勢がいい女将さんに押されるように花井が慌ただしく地図をしまった。それを確認すると女将さんは次々料理をテーブルに乗せていき、テーブルはあっという間に美味しそうな料理に埋め尽くされた。