君と世界と、僕。
□第8話
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「そいつって、本当に浜田さんだったのか?」
頂上へラストスパートをかけて再び歩き出した泉たちは、花井に先ほどの戦いのあらましを伝えた。花井は静かに話を聞いていたのだが、話が終わったあとにそう言った。
「後ろ姿しか見てないんだろ?泉が呼んでも反応を返さなかったってことは別人なんじゃないか?」
「確かに。それにあいつ、泉に攻撃してきたし」
花井の推測に賛成したのは巣山だ。巣山は、浜田が泉に攻撃するわけがない、と言った。それには誰もが頷いたが、泉だけは腑に落ちない表情をしている。
「でも、本当に浜田にそっくりだったんだ」
泉はあの後ろ姿を思い出しながら呟いた。
泉は昔から浜田の背中を追いかけて来た。小学校、中学校ではマウンドに立つ浜田の背中を守って来た。浜田の真っすぐに伸びるその背中には憧れも、尊敬も、総てが詰まっている。泉にとって浜田の背中は何よりも見続けているモノだった。
だからこそ、他の人にはわからなくとも、泉にはわかる。アレは浜田の背中だ、と。
「…あの人が浜田さんでも、浜田さんじゃなくても、俺らはきっとあの人ともう一度会うよ」
「なんでわかるんだ?」
泉の落ち込んだ様子に、栄口は断言した。花井は首を傾げて疑問を口にした。口にしないだけで巣山も西広も似たような表情で栄口を見ている。
「なんだか、そんな感じがするんだ」
「あいつは絶対また俺達の前に現れる。俺もそう思う」
自分でもよくわからない、という表情をしながらも栄口は確信を持った強い言葉でそう言い、田島もまた自信満々に頷いた。
「だからさ、その時に浜田さんかどうか、確かめよう?」
柔らかく微笑む栄口に、泉は黙って小さく頷いた。
たどり着いた頂上は、まるでその中心だけが切り取られたように開けており、太陽の光をいっぱいに浴びた地面は山中のじめじめと湿った地面とは違いカラッと渇いていた。
半径5メートルほどだろうか、それほど広くはないその頂上の開けた場所の中心に、ソレはあった。
「あれが……月光華?」
呟いたのは、花井だった。
6人の目の前には、確かに花が咲き乱れていた。
黄色い小さな花弁は幾重にも広がり中心の茶色い種を囲んでおり、緑色の茎と葉は太陽に向かって真っ直ぐに延びている。
その姿はまさに太陽。
「………ヒマワリじゃねぇ?アレ…」
泉の言葉に、全員が頷いた。
他に花があるかもしれない、と6人はヒマワリらしき花が群生しているその一帯の周りを念入りに探し始めた。
しかし、30分かけてくまなく探しても他に花らしきものは何もなく、6人は仕方なくヒマワリの前まで戻ってきた。
「……月光華って、これのことなのかな?」
「これ以外何もないし、そうなんじゃないか?」
ヒマワリを前に西広と巣山は顔を見合わせ、ヒマワリを見て微妙な顔をした。
「あー、でもほら。ヒマワリにしちゃ小せーし、中央の種だって一つしかねーし」
「花井、それ苦しいぞ。小さい種類くらいあんだろ。大体どう見たってこれヒマワリだろ」
どうにかヒマワリとの違いを並べ立てる花井に泉はスッパリと切り捨てる。泉のいうことはもっともな為、花井も何も言えず、ただ何とも言えない表情で目の前にある花を見た。
「月光華なんてスゲー名前してるから俺もっとスゲー花なんだと思ったー!想像と全然チゲー!!」
いかにもがっかりした、という風に田島は大きく溜息をついた。開けっ広げな田島に、泉たちもだよなぁ、と不満げな声をあげる。
「ゲームとかで出て来る花とかってさ、キラキラ〜とかしててさ、宝石とか付いてたりするじゃん?」
「あ〜、あるある。俺もそんな感じの想像してた」
「オレ、これ見て自分って結構夢見がちだったんだって思った…」
「俺も。……なんか結構恥ずかしいよな」
田島、泉、巣山、西広はそれぞれ残念がったり少し照れたりと微妙な表情で苦笑いをもらしていた。花井も口には出さないが恐らく同じように感じたのだろう、頬を赤く染めて気まずげに顔を伏せ、しかめっつらをしている。
そんな中、栄口だけは何か必死に思い出そうとしているのか、目を閉じて考え込んでいる。それに気付いた花井は、照れ臭さを紛らわせようと栄口に話しかけた。
「どうかしたのか?」
「うーん、やっぱり、これが月光華だと思うよ」
しばらく悩むように花を見つめていた栄口だが、確信したようにそう言い切った。