君と世界と、僕。

□第5話
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「巣山、どうしてここにいるんだ?」



突然茂みから現れた巣山を見て、花井が驚きながら尋ねた。
巣山は大きなその体を茂みから完全に出して泉達が雨宿りしている木の下にやって来た。



「俺は昨日からこの山に来てたんだ。頂上にある月光華を取りに来たんだ」

「え?巣山も?」



栄口から差し出されたタオルを受け取りながら巣山は説明をした。その説明に田島は首を傾げた。



「も、ってことは、お前達も月光華を取りに来たのか?」

「クエストを請けたんだ。俺達、賢者に会いにいこうと思ってな」

「じゃあ、俺と一緒だな。俺もクエスト請けて来たんだ」

「え?クエストは請け負い人が被らないようになってるだろ?一体何のクエストだ?」



一つのクエストに対して一つのグループが請け負うことがクエストの大前提となっている。複数グループを雇う場合もあるが、それはごく稀なことだ。そしてそういったクエストの重複が起こらないようにギルドが全国規模でクエストの管理を行っている。

花井たちがこのクエストを請けた時、クエスト内容には複数を募集しているようなことは言っていなかった。そのため、巣山とクエスト内容が被ることはまずないはずだ。



「俺の雇い主は阿部だよ」

「阿部って………あの阿部?!」

「そう。我らがキャッチャーのあの阿部だよ」



肩を竦めて笑う巣山に、他のメンバーは驚きを隠し得ない。



「一体どういうこと何だ?」

「あっちに小屋がある。話はそこでな」



選手が肩冷やしちゃダメだろ?と笑って巣山は茂みの奥を指差した。
まだ雨は止む気配はなく、泉達は巣山について小屋へと向かうことにした。

















雨で抜かるんだ歩きにくい山の斜面を気をつけながら歩いて行くと、泉たちがいた場所から100メートルくらい離れた場所に、小さな小屋が建っていた。
古びたその小屋は長い間使われていなかったのか、所々板が剥がれ、柱が剥き出しになっている。

それでも屋根はしっかりついており、雨を防ぐには充分そうだ。

その扉を開いて中に入ると、その中にはすでに先客がおり、泉達を出迎えた。



「やっぱりみんなだったんだ!久しぶりだね!!」

「西広!」



小屋の中にいたのは、西広だった。
予想していたのか、西広は驚いた様子も見せずやって来た5人ににっこりと微笑んだ。



「このクエストは西広と組んで請けてんだ。西広とはエスペリアで会ったんだ」

「ああ、あの港町」



巣山の言葉に反応を示したのは花井だった。



「前請けたクエストで近くを通ったんだ。ヴィリウスとも結構近いぞ」



訝しげな視線を送ったのが伝わったのか、花井は泉にそう説明した。

泉が納得したところで、西広が汚い所だけど立ち話もなんだから、などとまるで自分の家に招待したかのように振る舞うので、思わず全員笑い、皆で輪になるように床に座った。















「阿部が依頼者ってのはどーゆーこと?」



胡座を組みながら前に体を乗り出して田島は巣山に尋ねた。



「まぁ、それはそのまんまなんだけどな。俺らがクエストを選んだ理由ってのが、お前たちと一緒で『賢者』を捜すことだったんだ。で、その居場所を報酬にしていたのが阿部だったってわけ」

「何で阿部が賢者の居場所を知ってんだ?」

「多分、阿部は賢者と一緒にいるんじゃないかな?」



説明し終えた巣山に花井が疑問を投げかけるが、答えたのは巣山の隣に座る西広だった。



「賢者のクエストと阿部のクエストの内容と報酬は全く同じだったんだ。こんな偶然ないだろ?それに、不思議に思ってギルドの人に、二人のクエストが申請された日付を調べて貰ったんだけど、それも一緒。つまり賢者と阿部はある目的で同時にクエストを出したんだと思う」

「ある目的?」

「これは予想だけど、俺達を集めるため、じゃないかな?」



西広の説明に巣山と栄口以外のメンバーは首を傾げた。
唯一栄口だけは、なるほど、と頷いている。花井はどういうことだ?という疑問の視線を栄口に投げかける。栄口はそれを受けて口を開いた。



「冒険者たちが1番最初に頼りたいと思うのは賢者だ。そしてその情報を得るにはクエストが1番確実だろ?」

「阿部は俺達が賢者の情報を得ようとギルドに行くことを予想していたんだ」



栄口のあとを継ぐように西広が続けた。その内容に、それぞれが驚きの表情を見せた。





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