君と世界と、僕。

□第4話
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「『賢者』に関する情報を報酬とするクエストは、2件あります」



教会のギルドは冒険者のような出で立ちの男達でごった返していた。中には女性の姿も見えるが、数は圧倒的に少ない。

そんな中、泉達の姿は明らかに浮いていた。

周りは誰もが二十歳を越えているであろう、体つきもガッシリとした男達ばかり。泉達はどう見てもまだ華奢な子供だ。


周りからの訝しげな視線をやり過ごしながら向かった窓口では、愛想笑いを浮かべた青年が泉達を出迎えた。

用件を伝えると、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、またすぐに営業スマイルに戻り、言った。



「どちらのクエストも最高のSランクのクエストになりますが、内容をお聞きになりますか?」



事務的な口調に少し怯んだが、代表として係と対峙している花井は頷いた。
かしこまりました、と言うと、青年は2枚の紙を取り出した。どうやら依頼内容と報酬が書かれているようだ。



「まず一つ目のクエストは、モンスター退治です。カナローニャ大河に住み着いたドラゴンを退治することがクエスト内容です。報酬は賢者の存在について」


そこまで説明すると、青年は一枚目の紙をずらして、二枚目の紙を横に並べた。



「もう一つは…これは、賢者直々の依頼です」

「え?」



青年の言葉に、四人は驚きの声を上げた。



「クエスト内容は、薬草の採取です」

「薬草の採取?」



Sランククエストにしては簡単なのでは?と困惑した表情を見せる四人に、青年は動じた風もなく続ける。



「ヒゥカザス山の頂上に咲く幻の花『月光華』の採取がクエスト内容です。報酬は賢者の居場所。尚、このクエスト達成時には月光華を直接賢者へ届けることが義務付けられています」



そこまで読み上げると、青年は如何なさいますか、と花井を見た。
花井は他のメンバーの顔を一通り見て、頷いた。



「二つ目のクエストを引き受けます」



はっきりとした花井の言葉に青年は頷くと、一枚の紙を取り出した。



「当教会は契約者様のクエスト達成中の怪我あるいは命の保証は致しません。なお、依頼人様との契約相違に置ける問題の責任は一切負いません。以上のことに同意頂ければ、この誓約書にサインを」



渡された羽ペンで名前を書きながら、花井はこのクエストの難しさを思い、手が震えた。



「それでは、契約成立です。教会における医療設備のご利用は自由となっておりますので、お気軽にご利用ください。御武運をお祈り致しております」



どこか気遣うような青年の視線に送られながら、四人はギルドを後にした。















宿屋につくやいなや、花井と栄口は地図を円卓に広げた。
泉と田島もそのテーブルに集まり会議が始められる。



「ヒゥカザス山っていうのはここだよ。で、俺達がいるのはこの街」



栄口は最初に地図の右上の列島の真ん中に位置する山を指差し、そのまま指を左下に動かす。
指が止まったその場所には『Vilius』と書かれている。どうやらそれが現在地らしい。



「同じ大陸ならよかったな。移動にそんなに時間を取られない」

「まぁね。この街からは馬車で4、5時間ってとこだよ」



泉の言葉に答えた栄口だが、その表情は相変わらず晴れない。
栄口の隣に座る花井も固い表情のまま地図を見詰めている。



「何か問題でもあるのか?」

「問題なのは距離じゃない。この山自体なんだよ」



二人の様子に泉は堪らず尋ねると、花井が落ち着いた声で答えた。



「ヒゥカザス山ってのはそれほど標高はない山だ。けど、めちゃくちゃ天気が不安定な上に、モンスターのレベルが高い。俺達にクリア出来るかは微妙なとこかもしれない」

「でも、これが一番の近道なんだし。やるしかないよ」



大きくため息をつく花井を慰めるように、栄口は花井の肩をポンポン、と叩いた。
花井は力無さげに笑ったが、気を引き締めるように短く息を吐いて気合いをいれた。



「こうなったら意地でも月光華を手にいれっぞ!明日は朝から出発だから寝坊すんなよ!」



特に田島!と声をあげると、突然話を振られたのにも関わらず、田島はおぅ!と嬉しそうにガッツポーズをした。



「花井!起こしてくれ!」

「自分で起きろ!!」



ガッツポーズしたまま元気良く言いのけた田島に、花井はガックリと肩を落として叫んだ。

そんな様子を見ながら泉と栄口は二人で笑っていた。





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