君と世界と、僕。
□第3話
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「一旦宿屋に戻ろう」
泉が戻って来て最初に口を開いたのは栄口だった。浜田を見付けることが出来なかった泉は端から見ても元気がなかった。花井は責任を感じて口数が少なく、時々チラリと泉を見ては困ったように視線をさ迷わせていた。
「別に、花井のせいじゃねーよ。実際浜田じゃなかったかもしれねーし」
泉は花井にそう言ったが、花井はやはり責任を感じているのか、ああ、とだけ呟いた。
「にしても、なんで泉にだけあの創造主って人は説明してなかったのかな?」
宿屋につくと、栄口は店主に頼んで4人部屋に変えさせてもらった。荷物を移し終え一段落つくと、それぞれ設置されたベッドの上に座り込んだ。
栄口の言葉に、何故知っているのかと泉が驚くとそれを察したのか栄口は、さっき教会で田島に聞いたんだよ、と補足した。
「とりあえずこの世界について説明するね」
ちょっと長くなるけど、頑張ってねと笑う栄口に泉は寝そうだな、と自信なさ気に笑った。
「この世界は基本的には俺らがいた世界と同じ成り立ちだよ。ただ違うのが、国の在り方とかモンスターとか、あとは社会…かな。泉はRPGしたことある?」
「中学んとき少し。戦闘とかかったるくてすぐ止めたけど」
その泉の言葉に笑いながら栄口は続けた。
「やったことあるんなら多分大丈夫。この世界の基本がRPGなんだ。例えばモンスター。この世界のモンスターも倒せばお金やアイテムを落としてくれる」
この街に来る前の狼との戦闘を思い出しながら泉はわかった、と頷いた。
「そういえば泉の武器って、その銃?」
「ん?ああ。田島がその創造主?ってやつから預かってたらしい」
「預かってた……?ふぅん」
どこか腑に落ちないような表情をしながら、栄口は頷いた。
「この世界には、魔法も存在するんだ。多分、泉のそれも魔法の一種だと思う。使い方はわかる?」
「田島いわく、思った通りに撃てる、らしい」
アバウトだなぁ、と栄口は笑って、貸して、と手を差し出した。その手に銃を片方乗せると、栄口は慣れた手つきで銃を構えた。
「例えば、あの花瓶に向けて撃つとするよ。その時、あの花瓶が凍り付くように思いながら撃つ」
パンッと渇いた音がして銃が発砲した。しかし、弾の入っていない銃口からはやはり何も出てこない。
泉が花瓶に目をやると、なんと、花瓶が氷に覆われていた。
「な!?」
「こんな感じ」
驚いている泉をよそに、栄口はニコニコと笑って銃を泉に返した。それを受け取りながら、栄口って……と少し恐れを含んだ視線で栄口を見た。
それに気付いているのかいないのか、または無視してか、栄口は続ける。
「泉は2丁拳銃だから、それぞれ別のことをイメージすればそれが実現出来るし、同じものをイメージすれば攻撃力2倍になるよ」
「へぇ、便利だな。……ところで、なんで栄口が銃使えんの?これ魔力いるだろ」
それまで成り行きを見守っていた花井が栄口に尋ねた。いつの間に移動したのか、田島は花井のベッドの上で丸まって寝ている。
「あ、そっか。花井にもまだ言ってなかったね。俺、黒魔術系の技使えるんだ。ほら、杖」
「うわ、なんか妙に似合う…」
「白じゃなくて、黒なとこがな」
「二人とも、そんなに実演見たいの?」
収納可能な杖を構える栄口に、花井と泉は慌てて謝った。
全く、と溜息をついて栄口は杖をしまった。
「黒魔術って攻撃力高いからいいんだけどさ、詠唱に時間かかっちゃうんだよね。さっき教会に怪我治しにいったのだって詠唱中に攻撃されたからだもん」
援護ないとキツイんだ、と栄口は笑ったが、泉と花井は、コイツなら絶対一人で大丈夫だ、と妙な確信を持った。
「そういや花井の武器は?」
「俺はこれ」
花井はベッドの脇に置いた荷物から一本の剣を取り出した。
「随分適当に仕舞ってんだな」
「剣の持ち歩き方なんて知らねぇもんよ」
「だからって、バットじゃないんだから…」
荷物と一緒に乱雑に置かれていた剣に泉と栄口は憐れみの視線を送った。
花井はバツが悪そうに剣を胡座の上に乗せた。
「俺には魔力はねぇみたいだからな。とりあえずただの剣士だよ」
「無難なとこだな。まぁ花井らしいっちゃらしいよな」
「なんか微妙な言い方だな」
泉の言葉に微妙な顔をする花井に泉と栄口は笑った。