それでも僕は君と、
□第12話
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浜田が部屋から去った後、その場から動こうとしない泉をなんとか引っ張って花井たちは地上へと戻って来た。
神殿から出た頃には空は茜色に染まっており、その日はシエナ遺跡の広場で野営をすることになった。
「伝えて、来た よ!」
「おかえりー」
パタパタと足音を立てて三橋がテントまで走って来た。
今日起こった出来事を研究所に報告するためにイカロスを飛ばして来たのだ。
焚火を挟んで花井の正面に座った三橋は、右側に座っている泉を気まずそうにチラチラと見ている。
「…なぁ、三橋」
「うぁ!…あ、な…何…?」
ぼんやりと焚火を眺めていた泉は口を開いた。
突然話し掛けられたことに驚いてキョドキョドと花井達に目を向けて、しばらくして泉に視線を定めた。
神殿を出てからずっと黙り込んでいた泉が口を開いたことで花井と田島は少なからず安心したが、それ以上に続きが気になり耳をすませた。
「浜田が言ってた『存在理由』って、何なんだ?」
エルフならわかるはずだと浜田は言っていた。
その言葉を受けた三橋自身、目で見てわかるくらいに青ざめたのを泉は見逃していなかった。
「…魔王が…復活した、なんて……、あ、ありえ ない…から、 」
語尾が段々小さくなっていくので、泉達はその言葉を耳を澄ませて聞いた。
三橋は阿部達から魔王の存在を聞いていないのか、首を横に振りながらずっと魔王の存在を否定している。
「でも、俺達見たぞ?魔力…分布図?ってのに、白いデッカイ光りがあるの」
「え?…阿部く…たちは、未確、認魔力…体って」
どうやら阿部たちはあの白い魔力体を未確認魔力体と報告したらしい。
確かに、あれが魔王である証拠は何もないし、それを調べる為に今分析をしているのだ。
納得した花井たちとは打って変わり、三橋はまだぐるぐると頭を回している。
「ワリー、こっちの勘違いだ。…で、もし浜田…さんの言ってることが本当だとして、存在理由ってのはどういうことなんだ?」
「う…あ…」
ワタワタと三橋は慌てていたが、花井たちが辛抱強く待つと、ようやく落ち着いてえっと、と話し出した。
「…魔王…は、世界に、直接 干渉…しない。という、か…できな…い。 から、使者を…その…」
「わ、わかった、三橋。もういいよ」
たどたどしく三橋は話していたが、途中から混乱してきたのか、目までグルグルさせだした。
三橋の限界を見て取った花井は諦めて苦笑しながら三橋を止めた。泉は少し残念そうな表情を浮かべたが、三橋の様子から、詳しいことは研究所に戻ってからのほうが早そうだと思ったのか、それ以上は追求しなかった。
「泉はどうするんだ?」
三橋も落ち着いてきたころ、それまで黙っていた田島が泉を見ながら首を傾げた。
田島の言葉に泉だけでなく花井もピクリと肩を揺らして反応した様子から、花井も泉のこれからの行動を気にかけていたようだ。
「……どうって?」
ゆらゆらと揺れる炎を見つめたまま、泉は短く呟いた。
固い声とどこかぶっきらぼうな言い方は、明らかにその話題に触れたくないという泉の意思が窺われるが、田島はいつもにない真剣な表情で泉を見つめた。
「浜田を追うのか、村に帰んのかってことだよ」
「…追うもなにも、拒否られたんだぜ?……これ以上追いかけてどうすんだよ」
焚火を見たまま唇を歪めて自嘲する泉に、田島は眉間にシワを寄せた。
「…諦めんの?」
「だから言ってんだろ?あいつは俺といることを拒否したんだ!そんな奴を追ってどうすんだよ!?」
まるで射殺そうとするかのごとく鋭い視線を田島に向ける泉は鼻息を荒くして叫んだ。
しかし田島はその視線に怯むことなく真っすぐに泉を見つめる。
「浜田の意見なんか聞いてねぇよ。泉がどうしたいのか俺は聞きたいんだ」
「俺は……」
あまりにも真っすぐな田島の視線に、泉はグッと詰まると唇を噛み締めて俯いた。
「諦めんの?」
静まり返った中、田島はもう一度同じことを呟いた。
「……諦めたく…ない」
しばらく経った後、泉はポツリと呟いた。
「浜田と一緒に帰りたい。浜田がいなきゃ、意味がねぇんだよ!」
決意したように泉は顔をあげた。
その表情を見て田島はニッと笑った。
「なら、浜田を追い掛けようぜ!」
田島の言葉に泉は大きく頷いた。