それでも僕は君と、
□第10話
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「魔王の動きにはある規則性がありそうだ」
翌朝、泉たちを再び魔力分布図のある部屋へと招いた阿部は寝不足からか、昨日よりもさらに不機嫌そうな表情で告げた。
「その規則性がわかれば魔王を探し出すことができる」
欠伸を噛み殺しながらの阿部の言葉に、花井は泉の顔を見た。
呆然とした表情を浮かべた泉は、阿部の言葉を理解すると、その瞳に光を取り戻した。
「やったな!泉!」
「あ、ああ」
田島が喜んで泉の肩を叩くと、泉はまだ信じられないのか、口元を引き攣らせるように笑った。
「阿部、お前ホントに研究員だったんだな…」
「馬鹿にしてんのかテメェ」
思わず呟かれた泉の台詞に、阿部は額に青筋を浮かべたが、盛大に溜息をつくと腕を組んだ。
「ただ、規則性の解析は大事な上にかなり時間がかかる。まずは所長の承諾を得て、次にお前らの待遇も考えなきゃいけない」
「そんなに大変なのか?」
「解析にはそれなりの機材を使わなきゃいけないからな。ま、あの所長なら大丈夫だろ」
しれっとした様子で阿部が言うと同時に部屋の扉が開いて西広が入って来た。
手には大量の書類らしきものを抱えている。
「あ、説明終わった?」
近くにあったテーブルに書類をドサリと置きながら西広は阿部に尋ねた。
「あらかたな」
「そっか。じゃあ、これが資料だから、よろしくね」
余程眠たいのだろう。阿部はおざなりな返事をするが、西広は特に気にした様子もなく1番近くにいた花井に資料を一部手渡した。
「…依頼書?」
受け取った資料を見て、花井は訝しげに首を傾げた。
その花井の様子に、西広も不思議そうな表情を浮かべる。
「それはまだ話してねぇ」
「ああ、そうだったんだ」
思い出したように阿部が西広に伝えると、西広は納得したように頷いた。
「解析が終わるまで、泉たちがここを自由に出入り出来るようにする為にある依頼を請けてほしいんだ」
「さっきの待遇って、このことか」
「ああ」
先程阿部が説明の途中で言っていた泉たちの待遇というのが、この依頼のことだったのだ。
王立魔術研究所はその名の通り、王国の所有物であり、基本的に関係者以外の立入は禁止している。
今は例外的に入っているが、本来ならば泉たちがここに入るにはそれ相応の手続きが必要なのだ。
「まぁ、詳しい話は所長のところに行ってからだ」
言い終わるや否や、阿部は付いてこいとばかりにさっさと部屋を出ていく。
どうやら西広はここに残るらしく、じゃあまたね、と見送る体勢に入っている。
「西広」
泉は阿部についていく前に、西広に声をかけた。
西広は首を傾げて泉に続きを促す。
「お前にも阿部にも、無理させてるみたいで…ごめんな」
「……いいんだよ。これは多分、泉だけの問題じゃなくなるから」
「え?」
「ほら、早く行かないと置いていかれるよ」
意味深な言葉を呟く西広に、その意味を尋ねる前に話を切り上げられてしまった泉は、もやもやした気持ちのまま随分先へ行ってしまった阿部たちを早足で追い掛けた。
「初めまして。所長の志賀です」
そう言って穏やかな笑顔を浮かべた中年の男性は、眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせて泉たちを観察した。
「じゃあ早速だけど、依頼内容の確認していこうか」
物腰は柔らかいが、テキパキとした様子はさすが魔術研究所所長というところだ。
応接用のソファーに腰掛けたまま、志賀は向かいに座る泉たちにニコリと笑いかけた。
「昨日、西広から未確認魔力集合体の存在が報告されてね。こちらとしてはどんな些細な魔力体も放っておくわけにはいかないんだ」
そこで、と志賀は一旦言葉を区切り、泉たちを見渡した。
「君達3人にその存在の確認に行ってもらいたいんだ」
相変わらずニコニコと笑顔を浮かべながら、志賀は扉の方に視線を向けた。
「とはいえ、君達に全てを一任するわけにはいかないからね。こちらからも人材を派遣させてもらうよ。入ってきてくれるかい?」
「し、失礼…しま、す」
ガチャリと開いた扉から顔を覗かせたのは、昨日出会ったおどおどとした少年、三橋だった。