それでも僕は君と、

□第7話
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「それで、聞きたいことって?」



フリータイムも終わりを告げ、今は雅楽隊がゆったりとした音楽を奏で、回りのテーブルも再びそれぞれの食事に戻っている。

栄口は全員が座ったのを確認すると、泉に視線を向けた。
泉はまるで様子を伺うように黙って栄口を見ていたが、ようやく決心したように口を開いた。



「あの街で、栄口たちは俺に魔力があるって言ったよな?」

「言ったよ」



あっさりと肯定した栄口に、泉は少しいらだたしそうに眉間にシワを寄せた。



「魔の力ってのは禁忌の力なんだろ?それがなんで俺にあるってんだ?」



自分はただの人間だ、と泉は責めるような口調で栄口に突っ掛かる。
それに対して次は水谷が眉を潜めた。



「栄口は本当のことを言っただけじゃん。それに、実際その銃で魔力を撃てたんでしょ?」

「…それは…」



栄口の隣に座る水谷が栄口を庇うようにまくし立てた。
それが真実なだけに、泉はグッと詰まってしまう。



「水谷」

「でも…」

「いいから。…わかってたことだろ?」

「…それはそうだけど…」



泉が何も言えずにいると、栄口が水谷を柔らかく制した。
多少不満そうにしていた水谷も、ため息を一つつくと納得したように渋々と頷いた。



「泉には魔力があるのは真実だし、魔力が禁忌の力であることも事実だよ」

「じゃあ俺は…人間じゃないのか?」



ゆっくりと、まるで言い聞かせるように栄口は泉の目を真っ直ぐ見つめながら言った。
その目には、嘘や冗談の色は影もなく、それゆえそれが紛れも無い真実であることを泉に告げた。

肩を落として沈んだように泉は呟く。
その落ち込みように、栄口と水谷は気まずそうに顔を見合わせた。



「それは、俺達には何とも言えない。泉は自分で自分が何者かを知る必要があるんだ」

「どういうことだ?」

「旅をしているうちに、わかってくるよ」



ニコッと栄口は笑うと、一通の手紙を取り出して泉に差し出した。



「今から王都に行くんでしょ?」

「何で知ってんだ?」

「旅をしてるとね。色んなことを知るんだ」



ふわりと笑顔を浮かべながら、栄口は手紙を泉に渡す。
その笑顔は、先程のものとは違いどこか大人びた哀愁さえ漂わせるもので、泉は驚いて口を閉じた。



「この手紙を、阿部隆也に渡して。彼ならきっと、泉にヒントをくれるよ」



『阿部隆也』
その名前を聞くのは二度目だ。一度目は数日前、篠岡から。
王立魔術研究所にいるというその男は一体何者なのだろうか。

篠岡も栄口も、その人物は泉にとって重要な何らかの情報を持っているらしい。

受け取った手紙を見ていると、栄口が口を開いた。



「泉もきっと、これから色んなことを知っていくと思う。例えそれがどんな事でもね。もしかしたら、知ったことを後悔するかもしれないし、そのせいで何かが変わってしまうかもしれない」



ガタッと椅子から立ち上がりながら栄口はけどね、と続ける。



「未来を選ぶのは、泉だよ。それだけわかっていれば、きっと大丈夫」



栄口はそれだけ言うと、じゃあまたいつか。と手を振って水谷と共に店を出て行った。

その時泉には二人を呼び止めようという気持ちは起こらなかった。


流れる者を止めてはいけない


何故か、そんな風に感じてただ背を向けて去っていく二人を見送ることしか出来なかった。

栄口の言葉は、一体何のことを指しているのか。

栄口はまるでこれから起こることを全て知っているような、はたまた懐かしい過去を思い出すような、不思議な表情で微笑んでいた。


彼等は本当にただの吟遊詩人なのだろうか。


魔王の出現、自分の正体、栄口と水谷、そして阿部隆也。

解らないことが有りすぎて、頭がパンクしてしまいそうだ。
一先ず花井が待つテーブルへと戻り、僅かに残っていた自分の飲みかけの水をグイッと一気に飲み干す。



「どうした?」



泉の様子が変だと気付いた花井は首を傾げて顔を覗き込んだ。
空になったグラスをテーブルに置くと、泉は大きく息を吐いた。



「…王都に急いでいいか?」



ポツリと呟かれた泉の言葉に、花井は更に首を傾げたが、泉の真剣な表情に何事かあったのだろう、と思い頷いた。



「明日朝一で辻馬車に乗ろう」

「わりぃ」



移動中にモンスターを倒しまくり、資金は既に集まっていた。
とはいえ馬車に乗る分としてはギリギリの金額だったため、次の街までは徒歩で向かうつもりだったのだ。
その予定を繰り上げることはイコール生活が苦しくなることを意味している。

泉は二人を巻き込んでしまうことを心苦しく思い、頭を下げた。



「泉。一緒に旅をするって決めたのは俺達だ。だから泉は泉のやりたいようにやっていいんだよ。それに、言われるんなら、他の言葉がいいな」



花井は頭を下げる泉に苦笑し、真っ直ぐに泉を見つめて言った。
花井の言葉に顔をあげた泉は、最後に花井が悪戯っぽく笑ったのにつられて、クスリと笑みを零した。



「ありがとう」




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