それでも僕は君と、

□第6話
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「……花井。…いつもこんなんなのか…?」



肩でゼイゼイと息をしながら、泉はようやくたどり着いた街の門に寄り掛かった。
その少し後ろでは泉程ではないにしろ、息を乱した花井が苦笑しながら剣を鞘へ納めている。



「まぁ、大体いつもこんな感じだ」



花井のその言葉に、泉はどっと疲労が襲って来るような気がして、大きく息を吐いた。


二人の服は泥まみれで体のあちこちに擦り傷や軽い切り傷が出来ている。
致命傷まではないものの、服の所々には血も滲んでいる。

このボロボロの状態で、泉たちはようやく次の街へとたどり着いたのだった。



「あっちに宿屋があったぜ!」



疲労のため門に寄り掛かったまま座り込んだ泉と、その横で立ったまま門に背を預ける花井の元に田島が駆け寄って来た。

田島の服も二人同様ボロボロであるが、疲れ切った二人とは対照的に元気が有り余っているようだ。
田島は街に着くやいなや宿を探してくる、と言い残し、人がごった返す街中にスイスイと消えて行ったのだ。



「部屋も空いてるって!」

「良かったな。久々のベッドだ」

「あー。マジ早く寝てぇ!!」



先頭でぴょんぴょん跳びはねている田島を見て、泉はあいつは人間じゃねぇ。と思った。
それに付き合える花井も軽く人間離れしているが、今はそんなことよりも早くふかふかの布団に倒れ込みたい思いでいっぱいだ。



「モンスター倒しまくってガルドも貯まったし!いっぱい飯食えるぞ!!」



心底楽しそうに歩く田島の少し後ろで花井が節約しろよ、と注意をしているが、田島にはその声は届いてはいないだろう。



泉と花井の疲労の原因は、目の前を元気に歩く田島にあった。
街から街への移動の最中、モンスターと戦闘になることは、気をつけていれば数回で済むほど普通は多くないのだ。実際泉は一人で旅をしていた時などはモンスターを避け、殆ど戦うことはなかった。

しかし、田島は遥か遠くでも視界にモンスターの影が見えれば直ぐさま戦闘スイッチが入ってしまうらしい。
猪の如くモンスターに向かって猪突猛進していくのだ。

その為、泉たちは引っ切りなしにモンスターとの戦闘を繰り広げ、街に着く頃には疲労困憊してしまっていた。



「俺はとりあえず寝る。食事はお前ら二人で行ってこいよ」



街の東側に位置する宿屋に辿り着き、三人部屋を取ると泉は花井達にそう告げて一人でさっさと二階にある部屋へと向かう。
そんな泉を心配そうに見送りながらも、花井は食事を摂るために田島を連れて宿屋をあとにしたのだった。















「あー…疲れた」



荷物をドサリと床に置いて泉はベッドへとなだれ込んだ。

ベッドの柔らかさに身を委ねながら、泉は寝返りを打ってぼんやりと天井を見上げた。



「………魔の力…か」



ぽつりと呟いたのは、森の屋敷で花井が話していた魔女についての本の内容だ。

その内容は、学校もない小さな村で育った泉にとっては初めて聞く内容だった。

もちろん魔女という存在が禁忌の存在で、今はもういないということは小さな頃にお伽話として聞き教えられてきた。

ただ、その禁忌の由来が魔の力を有することだというのは知らなかったのだ。



「なら、俺は…?」



投げ出していた右腕を少し動かすと、硬い感触が手に伝わる。
慣れた仕種でそれを取り出せば、ランプの光を反射して銀色の光が目にちらついた。


泉には田島と花井に話していないことがあった。


最初は特に隠していたわけではなく、ただ話す機会がなかっただけ。

しかし、花井の話を聞いたあと、それを言うべきなのか言わないでおくべきなのか、泉は悩んでいた。


あの日泉が出会った不思議な二人組。
栄口と水谷は、確かにこう言ったのだ。


『この銃は泉の魔力を弾にすることが出来る』と。


今までで一度だけ、泉は田島たちの前で魔力を撃った。
その時、田島は驚きながらも歓声を上げていたが、それが魔力だとは思わなかったらしい。その時はそのままうやむやになってしまい、田島たちもその件については忘れてしまっているようだった。

それ以降、泉は前と同じく銃弾を込めて使用していた。




『魔の力』を持つ者は禁忌の存在




その言葉が泉の頭の中をぐるぐると巡っている。



「……クソッ」



銃を握り締めたままボスッとベッドにたたき付ける。

自分は一体何者なのか。

見えない恐怖と圧迫感に、泉は胸のペンダントを強く、握り締めた。





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