それでも僕は君と、

□第5話
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天と地

昼と夜

人と魔物


それらは決して交わることのない対極の存在


それは神が決めた絶対の真理





しかしある日

その真理は突然破られた


人の姿でありながら魔の力を持つ者が現れたのだ



魔物でもなく、人でもない禁忌の存在




人は畏れを持ってその存在をこう呼んだ





『魔女』と。


『神の創造物』より抜粋  









「ただの作り話だと思ってた…」



有名な歴史書の一文を思い出しながら花井は呆然と呟いた。
書物の中で『魔女』という存在が描かれているものの、実際にその存在を肯定するような情報は聞いたことがない。

大昔には『魔女狩り』と呼ばれる人々もいたのだが、それも魔女かどうかもわからない女性たちを殺すただの虐殺人として当の昔に朽ち果てている。

魔女について推察した本は、それこそ山のようにあるが、結局今では誰もがそれは架空の存在だと認識している。



「もう何百年も見つからないように暮らして来たから」



笑う篠岡の笑顔の奥には、体に染み付いた孤独感を嘆くような悲しげな色が垣間見えた。



「何百年も…って、正体明かしていいのか?」



そんなに長い間身を隠していたというのは、やはり正体がばれては迫害を受けたりする可能性があるからだろう。

篠岡が魔女だからと言ってどうこうしようとは誰も考えてはいないとは思うが、それでもつい心配してしまい、巣山は篠岡を見た。



「あなたたちなら大丈夫だと思って。…いいですよね?」



にっこりと巣山に向けて笑った篠岡は、その視線をスッと部屋の扉に向け、質問するように小首を傾げた。

篠岡の視線を追って、篠岡が座っている位置とは真逆にあった扉に4人が一斉に顔を向けた。

そこには、扉に寄り掛かるようにして黒髪を腰の辺りまで伸ばした女性が腕を組んで立っていた。



「もちろん」



気配を消して部屋に入ってきていたその女性に、泉たちは身を固くして警戒した。

つり目気味のその顔は美人な分余計に気が強そうな雰囲気がする。
しかし、人懐っこそうな笑顔のお陰かその雰囲気も和らいでおり、泉達も敵意のない女性に警戒を解いた。

女性はカツカツと靴を鳴らして泉たちへと近づいて来ると、手を差し出して一人一人と握手を交わした。



「初めまして。私は百枝まりあです」



因みに私も魔女です、とあっさり言い切る百枝に、泉たちは戸惑ったように顔を見合わせた。



「一緒に住んでる先生って…」

「うん。この人だよ。私はまだ見習いだから」



篠岡は立ち上がって百枝の隣まで寄って行った。
女性にしては背が高い百枝と篠岡は並んでいるとまるで姉妹のようだ。



「話は大体聞かせてもらったわ。あなたたち、ウルフ退治に来たのね?」



キリッとした表情で泉たちを見渡した百枝は腕を組んで口を開いた。



「単刀直入に言うわね。この森にウルフはもういないわ。餌の問題もあるけど、もう一つ原因があるのよ」

「もう一つ?」



人差し指をピンと立てる百枝に篠岡も初耳だったのか、驚いたように首を傾げる。
眉を寄せて百枝を見る花井に、百枝は頷いた。



「魔王が現れたの」

「魔…王…?」

















「…………って、なに?」



しばしの沈黙のあと、田島の声が静かな部屋にポツンと落ちた。

田島はキョトンとした表情で花井を見たが、花井はウッと詰まったように座ったまま身を引いた。その顔は明らかに焦った色を浮かべており、泉は花井に向けていた視線を巣山に移した。



「王っていうくらいだから、なんか凄い奴なんじゃないか?」

「じゃあ『魔』って、モンスターのこと…とか?」



泉の視線に気付いた巣山が首を傾げながらそう言うと、花井も思い付いたように呟いた。



「んふふ。皆なかなか利口じゃない!その通り。魔王は魔を司る者。つまり、モンスターの親玉みたいなものなの」



満足そうに笑う百枝の隣で篠岡もクスクスと笑っていた。
さすが篠岡の師匠というべきか、百枝はまるで教師のような雰囲気を持っている。



「まぁ、知らなくても無理はないわ。魔王なんて存在は今まで現れたことがないからね」



だからこそヤバイんだけどね、



小さく呟かれた百枝の言葉は、それでも泉たちの耳に確かな響きを持って入って来た。






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