それでも僕は君と、

□第4話
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「なんか、嫌な感じがする」



注意深く辺りを見渡しながら巣山は小さく呟いた。

ウルフの骨が大量に散らばっていた所から4人はさらに奥へと向かっていた。
ウルフを倒したモンスターが行商人を襲えばこれまでは荷物だけで済んでいた被害が、次は致死被害に成り兼ねない。

それを危惧した巣山達は、ウルフ退治を変更し、ウルフを襲ったであろうモンスターを探すことにした。



「モンスター同士の共食いなんて、聞いたことねぇしな…」



巣山の呟きに答えるように花井は眉を寄せた。

元来、種類は違えどモンスター同士で争うようなことはなかった。
モンスターにとっての敵は人間だけなのだ。

そのモンスターが別のモンスターを喰らうなど、聞いたこともない。


その異常事態に巣山だけでなく花井たちも気を尖らせていた。







「あそこ!何かいる」



突然花井が叫んだ。それと同時にガサッと草が揺れる音がして、その音がした方向を泉たちは一斉に見た。

所狭しと群生する常緑樹の太い幹と幹の隙間。

その隙間を黒い影が横切った。



「デカイぞ!!」



直ぐさま斧を構え、巣山が重心を落とした。
その後ろでは泉も銃を握り、一瞬だけちらついた影がいた方向へ構える。


横切った影は、恐らく泉と同じくらいの大きさだ。
その上、見た限りではかなりの素早さを持っているようであり、もしもそれがウルフを殺したモンスターであればかなり苦戦を強いられそうだ。

ゴクリと泉は唾を飲み込み、辺りの音に耳を澄ませた。


どうやら影は逃げたようで、前方の離れた場所で草を踏み付けて走る足音が聞こえる。



「どうする?追うか?」



泉は前方に立つ巣山の背中に声をかけたが、答えなどわかりきっている。



「もちろん」



巣山が答えると同時に一斉に駆け出した。
















深い森の奥。
背の高い木々の合間から真上に昇った太陽の光が差し込んでくる。

泉達はモンスターを追い掛けて鬱蒼とした森を駆け抜ける。

走っていくうちに、段々木の数が少なくなってきた。
森の反対側へ出たのかとも思ったが、昨晩見た地図でこの森は山脈を背にしていたのを思いだした。



「なんだ?ここは…?」



巣山もこんなに奥まで来るのは初めてなのだろう、不審そうな声で呟いた。



目の前に突如広がったのは、森の中とは思えない、一本の木もない広場と直径10メートルはありそうな楕円形の湖だ。
湖の水は、遮られることなく頭上から降り注がれる太陽の光に煌めいている。
そしてもう一つ泉達の視界に飛び込んで来たものがある。

泉達はこの場にあるには不自然なそれに驚きのあまり呆然としてしまった。

煌めく湖の奥。
山脈を背にしてあったのは、明らかに人工物である屋敷。



「…こんな所に、誰か住んでんのか…?」



その屋敷は、まだ出来て数十年も起っていないのだろう、白い壁は多少汚れてはいるものの、古びた様子はない。
落ち着いた赤い色をしたその屋根のてっぺんでは銅色の風見鶏がクルクルと風に吹かれて回っている。



「さっきのって、もしかしてこの屋敷に住んでる人間か?」



花井が困惑した声で呟く。

確かに追っていた影は、泉と同じくらいの体長だったということしかわからず、それがモンスターなのか人なのかを見分けることは出来ていなかった。

それでもやはり疑問が残る。



「ならなんでいきなり逃げんだ?」



同じ人間であるなら、自分達の目の前に出てくれば良かったのだ。
泉は首を傾げながら花井を見た。花井は少し考えて、ポツリと呟く。



「俺達が武器を持ってたからじゃないか?」



花井の言葉に、泉はハッとした。

確かにあの時、ウルフを倒したのであろうモンスターに備えて各自武器を手に持っていた。
その上、ガサッと物音がした瞬間、反射的に音がした方向に向けて武器を構えたのだ。

普通の人間なら怯えて逃げ出すのもわからなくはない。



「とりあえず行ってみねー?」



屋敷を指さしながら田島はワクワクした表情で提案した。
どうやら田島にとってはコレも冒険の一つのようだ。

その楽観的な思考が少し羨ましいな、と思いながらも泉は苦笑した。



「ま、ここで話してても仕方ないしな。行ってみようぜ」



巣山がそう言うと、泉も花井も頷いて4人は屋敷へと向かって歩き出した。
















「すいませーん!誰かいませんかー?」



扉に備え付けられている少しくすんだ銀色のノッカーをゴンゴン、と鳴らしながら巣山は叫んだ。

返答がないか、黙って屋敷の中の音に耳をすませると、トントンと軽い足音が聞こえてきた。

やはり誰か住んでいるようだ。



こんな辺鄙な場所に暮らしているのだから、恐らく普通の人間ではないのだろう。
一体どんな奴が出て来るのだろうかと、4人は顔を見合わせてゴクリと唾を飲み込んだ。


ガチャガチャと扉の反対側で音がして、ゆっくりと扉が開かれた。







「あ…。さっきの……」








開いた扉の向こう側からひょっこりと顔を覗かせたのは、大きな瞳をキョトンとさせた女の子だった。









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