それでも僕は君と、

□第3話
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「あ」

「ん?」

「おっ」



日が昇ったばかりの朝早い時間帯。
起きたばかりでぼんやりした頭のまま集合場所へと向かえば、そこには見たことのある顔があった。

見覚えのある顔を見て思わず上げた泉の呟きに、その人物たちも泉を見て驚いたような表情を浮かべた。



「昨日の…」



その顔の一つ、頭にタオルを巻いた少年が驚いた表情で泉を見ながら口を開いた。
すると突然、長身のその少年が何か言おうとするのを遮るようにその横から小柄な少年が泉の目の前に飛び出して来た。




「お前ギルドにいた奴だよな?」



今にも飛びついてきそうな勢いに圧され、泉は思わず一歩後ずさった。
それを察したのか、長身の少年が慌てて小柄な少年の首根っこを掴んで引き戻した。



「おい田島!驚いてんだろ!」

「えー!だって気になんじゃん」

「わかったから落ち着けって!」



田島と呼ばれた少年は強引に引き戻されたことを気にした様子もなく、長身の少年を見上げながら手足をバタバタさせている。

はぁ、と盛大な溜息をつく長身の少年と暴れる小柄な少年はまるでやんちゃな小型犬とそれをなだめる飼い主のように見える。



「いきなり悪かったな、驚かせて」



田島を静かにさせて長身の少年が泉に苦笑を向ける。
二人の様子に呆気にとられていた泉だったが、明るい二人のやり取りにクスリと笑ってしまった。



「いや。あんたらもクエストメンバー?」

「ああ。俺は花井ってんだ。で、こっちは田島」



よろしくな、と手を差し出してくる花井に泉も自己紹介しながら握手を返す。



「なぁなぁ!泉って何歳?俺らと同じくらいだよな!?」



先程からうずうずしていたのか、田島は目を輝かせて泉の腕を掴んだ。
泉は多少驚いたものの、その人懐っこい田島の態度に頬を緩ませた。



「俺は15だよ」

「すっげー!俺達みんな同い年!!」



なぁなぁ!と次は花井の腕に纏わり付く田島を見て、泉は今度こそ目を丸くした。



「俺達って…。田島も、花井も15!?」



泉は目の前にいる二人を見ながら驚愕の声を上げた。

背が高く、年上の風格がある落ち着いた物腰の花井と、小柄でやんちゃな子供のような田島が同い年。その中に自分も加える。

それでも全員、同い年。



「あ…有り得ねぇ…」



昨日の巣山の件といい、一体15歳の基準は何なんだ、と泉は頭を抱えたくなってしまった。



「おーい…大丈夫かぁ?」



腕に田島をぶら下げたまま、花井は困ったように泉に声をかけた。

ふらふらとする足をしっかり踏み締めて、泉はようやく落ち着いた。



「じゃあ、巣山が言ってた二人ってのはこいつらのことか」



昨日巣山がしていた若い旅人たちについての話を思い返しながら泉は改めて二人をよく見ながらポツリと呟いた。

まさかこんな偶然があるわけないと思っていたのに。

なんだかこの街に来てからは不思議なことがたくさん起こる。



「巣山知ってんの?」



泉の呟きを耳聡く聞き取ったのか、田島は首を傾げながら泉を見た。



「昨日店に行って知り合ったんだ」

「あそこの料理うめぇだろー」



楽しげに笑う田島を見て、巣山が面白い奴、と言った理由がなんとなくわかった気がする。






「なんだなんだぁ?ガキばっかじゃねぇか」



突然、馬鹿にするような声が泉達の背後からあがった。
振り返ると、そこには3人のがっしりとした体格の男たちがいた。男達はゲラゲラと下品な笑い声をあげながら泉たちを見ている。



「クエストってのぁいつからガキのお使いになったんだぁ?」



男の一人が間延びした話し方で隣の男に話し掛ける。
隣の男は斧を片手で弄びながらニヤニヤとした笑みを浮かべている。



「田島、相手にすんなよ」



花井が田島の隣に来て、ポン、と肩に手を置いた。
泉が田島を見れば、田島は今にも男達に飛び掛かりそうなほど顔をしかめている。



「朝早くからどうも、皆さん」



一触即発な雰囲気を漂わせる中、門の街側から巣山がやってきた。
巣山は軽く頭を下げて集まった人達に挨拶をする。



「なんだ?依頼主もガキかよ!」



斧を弄んでいた男が巣山を見て顔を歪ませた。
他の男たちも似たりよったりな表情で巣山を見遣る。巣山は男達の視線に怖じけづく様子はなく、肩を竦めてみせた。



「嫌なら帰って貰って結構っすよ」



飄々とした巣山の様子は男達の逆鱗に触れたのか、男達はそれぞれの武器に手をかけた。



「おいガキ。あんまり大人をからかうもんじゃないぜ?」

「生意気なガキにはぁ。躾が必要なんじゃねぇのぉ?」



湾曲した珍しい形をした剣を持った男が剣をクルクルと回しながら巣山に近づく。
間延びした喋り方の男は何本かの小さなナイフを指の間に挟んで構える。



「一対三って卑怯だよな?」

「……わかったよ」



三人の男達が巣山ににじり寄って行くのを見ていた田島は、隣に立っている花井を見上げた。
花井ははぁ、と溜息をつきながら腰にぶら下げた剣に手を当てた。



「おーい巣山!俺らもまぜて!」



タタタッと巣山に駆け寄りながら叫ぶ田島の後を追う花井を泉は呼び止めた。



「あいつ、武器は?」



身一つで飛び込んで行った田島を困惑した表情で泉は見た。
それに納得したように花井はああ、と頷くと軽く笑った。



「あいつの武器はあいつ自身だよ」






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