それでも僕は君と、

□第2話
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栄口と水谷と別れて3日が経った。

泉はまだ同じ街に滞在していた。
規模が大きな街で、たった一人で情報収集するのはどうしても時間がかかってしまう。

日が暮れて宿屋に戻って来た泉は上着も脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ。
一日中人込みの中を歩き回り、たくさんの人に話し掛けて行くのは、ただ平原を歩いていくより疲れる。

一日分の疲労が溜まった体は睡眠を欲している。
のろのろと回転する頭で夕飯食べなきゃ、とかシャワーどうしよう、など取り留めのないことを考えていた。



今日はいつもよりも疲れた。



漠然と泉はそう感じていた。
一日中歩き回ることなど毎日のことだし、身体的な疲れはいつもとそれほど変わらない。

ただ今日は、精神的に疲れたのだ。



「全く情報ねぇんだもんなぁ…」



ポツリと呟いた言葉は、たいした大きさでもないのに無駄に部屋に響く。
そのせいで独りだということを余計に意識してしまう。

目を閉じて、泉はゆるゆると息を吐き出した。



今までに何度感じたか分からない孤独感に、今でも慣れることは出来ない。



泉は寝返りをうって仰向けになると、ゴソゴソと服の中から紐を引っ張り出した。

紐の先についた丸い金属板が、宙に吊られてクルクルと回転する。その度に、埋め込まれた透明な石がランプの明かりを受けて輝く。

目の前で回るそのペンダントを、泉はぼんやりと眺めた。



埋め込まれた石が何の石なのかはまだわかっていない。
それを知るよりも先に、浜田の居場所が知りたい。


それだけなのに、どうして上手くいかないのか。


もどかしさと焦り

時にそれは、押し潰されそうな程に強いプレッシャーになって泉を襲う。
そんな時、泉はただこのペンダントを握りしめてそのプレッシャーが過ぎ去るのを堪える。



「…バカ浜田」



じわり、と滲む視界に泉は息を詰めた。





















翌朝目が覚めた時、ぼんやりとする意識の中で泉は自分がペンダントを握りしめたまま眠ってしまったことに気がついた。

目が少しズキズキしている。もしかしたら眠っている間に泣いてしまったのかも知れない。

泉は起き上がると顔を洗うために洗面台へと向かった。





「そういえばそろそろ…」



顔を洗って幾分スッキリした頭でふとあることを思い出した。
泉はベッドの上に座り、その脇に置いていた鞄を持ち上げた。

中から一つの袋を取り出すと、紐を解いて中身を確かめる。
それを見てはぁ、と息を吐くと、窓の外に視線を飛ばした。


窓からは沢山の建物が見える。その中で、一際背の高い建物が目に入った。



「…今日はあそこに行くか」



目的を決めて手に持っていた袋の口を紐で縛る。
袋の中でチャラ、となんとも物悲しい音が鳴った。

















ギィッと大きさの割には軽い扉を泉は押し開いた。
中ではそれほど多くはないものの、何人もの男達が行き来している。その合間をすり抜けるように泉は奥の部屋へと向かう。
途中、右腕を白い包帯で吊った大きな男とすれ違った。
男は不審そうな瞳で泉を見た。それもそうだろう。今から向かうところは普通は泉のような子供が行くような場所ではないのだから。
旅を始めて泉は何度もこの場所に足を踏み入れている。その度に向けられる視線にはもう慣れてしまった。

泉はその不躾な視線を無視して進む。



奥にたどり着き、部屋に入るために扉に手をかけようとした時、ちょうど扉が開いて中から二人の男が出て来た。
その二人を見た泉は驚いて目を見開いた。


片方の男は背が高く頭にタオルを巻いている。
剣士なのか腰には剣がぶら下げられている。
もう片方の男は背が泉より低く、全身から活発そうなオーラを漂わせている。


そこまでは大して驚く程のことはない。
そんな人間は周りにたくさんいる。


泉が驚いたのは、二人は明らかに自分と同い年くらい若い少年だったことだ。


場所が場所なだけに、まさか自分以外に若い人間がここを出入りしているとは思わなかったのだ。
それは相手にとっても同じだったようで、二人とも驚いたように泉を見ている。



珍しいこともあるもんだな



泉は二人に道を譲るために一歩下がりながら思った。
二人はども、と礼を言いながら出口へと消えていった。背後で小柄な方の男がギャーギャー騒ぐ声が聞こえた気がしたが、特に気にせず泉は部屋の中へと入って行った。






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