それでも僕は君と、

□Prologue
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雨が降っていた。



ザアザアと、まるで滝のように激しく。



目の前にうずくまる背中に



雨粒は容赦なく降り注ぐ。






耳障りな雨の音に紛れて



低い鳴咽が聞こえた。









それでも僕は君と、




















「おーい!泉!そろそろ帰るぞー」

「おー」



拾い集めた木の実を麻袋に詰めていると、少し離れた場所で浜田が大きく手を振りながら叫んだ。
気が付けば既に太陽は傾き始めていた。

泉は麻袋の口を紐で手早く締めると肩に背負った。
今日はたくさん木の実を収穫することが出来たため、いつもよりズシリと重たい。その重みに泉は満足そうに笑うと、自分を待っている浜田の所へ向かった。



「お、いっぱい採れたじゃん」



駆け寄って来る泉が担いでいる麻袋を見て浜田は笑った。
浜田の足元には泉の袋より大きくて頑丈な袋が置かれていた。
その膨らみ具合で浜田も今日は大漁だったことがわかる。



「どうだった?」

「今日は野ウサギとかキツネとか。あと、ベアも捕れたよ」



ニコニコ笑う浜田の言葉に泉は眉を潜めた。



「モンスターが出たのか?」



その言葉の裏に、何故自分を呼ばなかったんだ、と批難の色を感じ取った浜田は困ったように笑った。



「単体だったし。大丈夫、無理はしてねぇよ」

「べ、別に心配してるわけじゃねーよ!」



ぽんぽんと軽く頭を叩かれて泉は慌てたように浜田の腕を払う。
それに気分を害した様子もなく、浜田は足元に置いていた袋を担いだ。



「さ、帰ろうか」



泉の麻袋より一回り以上大きな麻袋を背負って、浜田は歩き出した。その隣を泉も歩いていく。





二人が暮らしているのは、今いる雑木林から歩いて30分ほど行った小さな村だ。
土地に恵まれたその村では、村民たちは農業を生業として自給自足の生活を送っている。



「今日は肉たくさんあるし、皆におすそ分け出来るな」



のんびりと歩きながら浜田はカラカラと笑った。

浜田は剣の腕が立つため、猟師として毎日雑木林やそこより少し離れた森に猟に向かう。
泉は浜田ほど剣を扱うことが出来ないため、いつもは村に残って浜田の両親の畑仕事の手伝いをしているが、今日みたいに時々木の実を拾いに浜田に着いて行くことがある。

その時も泉は入口付近で木の実を集め、浜田は奥へ猟に行く。

本当は泉も浜田みたいに猟に行きたいのだが、危険だから、と浜田に反対されているのだ。



「畑の方でも収穫始まってるし、夕飯は豪勢なんじゃねぇ?」

「お!やったね!」



嬉しそうに笑う浜田の横で、泉も豪華になるだろう食卓を思い浮かべて笑った。



「そういや、もうすぐ泉の誕生日だよな?」

「まぁ、一応」



浜田の問いかけに泉は曖昧な表情で答える。
浜田の言う誕生日は、泉の生まれた日ではなく、泉が浜田家に拾われた日のことを指しているからだ。



「何だよその微妙な表情は。その日は泉が家族になった大事な日なんだからな!」



泉の態度に浜田は拗ねたように口を尖らせ、泉の左頬を抓った。



「うっぜーな!」



痛くはない抓り方に、泉は煩わしそうに顔を振って浜田の手から離れる。
口では悪態をついているものの、泉としても浜田の気持ちは嬉しいのだ。



泉は赤ん坊の頃に村の近くで浜田の両親に拾われた。
浜田の両親は、浜田と共に泉のことも本当の子供のように大切に育ててくれたし、浜田も泉のことを本当の弟のように守ってくれた。
些か過保護な部分もあったが。

それでもやはり、泉としては浜田たちの存在はかけがえのないものだし、浜田たちが泉が家族になった日を祝福してくれる気持ちもとても嬉しいのだ。
ただ、それ以上に照れ臭い。



「誕生日とか、別にいいって言ってんのに」

「またんなこと言う。ま、いいや。泉。手、出して」

「手?」



気持ち悪いくらいにニコニコ笑っている浜田を胡散臭そうに見ながらも泉は左手を出した。



「ちょっと早いけど、プレゼント」



泉の手に落とされたのは、透明でキラキラした石が埋め込まれたペンダントだった。



「知り合いに宝石商のやつがいて、譲ってもらったんだ」



照れ臭そうに頬を掻きながら浜田は説明した。
泉は自分の手にあるそのペンダントを見て、浜田に視線を移した。



「これ、貰っていいのか?」



宝石商に譲って貰ったということは、この埋め込まれた石は恐らく宝石なのだろう。
そんな高価なものを貰っていいものかどうかわからず、泉は途方にくれたような表情をした。



「もちろん」



当たり前だ、と言うように優しく微笑む浜田に、泉は照れ臭さと嬉しさに俯いた。



「……サンキュ」



風でも吹けば掻き消されてしまいそうなその声は、それでも確かに浜田の耳に届いた。







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