月虹群雲、乱れて候。
□2章
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ウルパについてまず目に付いたのは、どこか浮き足立った、まるで祭りでもあるかのような活気だった。
「あの、すいません」
何かの準備をしているらしい男の人に声を掛けてみる。
真昼にフードを被った怪しい風体であるのは判っているが、振り向いた彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「何か?」
「凄く活気付いているみたいなんですけど、何かあるんですか?」
「……あんた、コレ目当ての旅演じゃねぇのか」
「旅演は旅演ですが。コレ、ってなんです?」
「今マルダラから国王らの一団が来てるんだよ。数年ぶりの訪問だとかで、街中歓迎の催しで一杯って訳だ」
「へぇ……有難うございました」
返すや否や、また何かを組み立てるのに戻る。……もしかしたらその催しで使うものを作ってるのかもしれない。
「ヴァーグ、マルダラってのは国か?」
すぅ、と音もなく隣に立っていた彼に小声で問い掛けた。
その声を合図にする様に歩き出しながら、ヴァーグが説明をしてくれる。
「マルダラはハルパの隣国に当たる。遥かに富んだ国だ、ハルパはマルダラの庇護下に入りたがっておる。今回の来訪も、その会合をする為に違いあるまいよ」
「大きいのか?」
「大きい」
きっぱりと言った。
ヴァーグが大きいというのだ、実際に、ハルパとは格の違う国なのだろう。
「どの位?」
「国土自体もかなりの差があろうが。それだけではなく、地下資源が豊富だな」
「へぇ……」
「……王が無能でも、そうそう国が傾く事はあるまい」
「ヴァーグ?」
「何でもない」
ぽつりとこぼされた一言に、どこか残念がるような響きを感じる。
まぁ、傾かない国には興味がない、とか、そんな事なんだろうな。何しろ魔属なんだから。
しかし……王が無能でも、か……
まるで、マルダラの王は無能だ、とでも言っているかの様な、そんな言い回しだった。
それがふと気になり、聞いてみる事にする。
「今のマルダラ王は、どんな人が知ってる?」
「一言で評すば、天賦の才に恵まれた王、であろうな。我も直に見た訳では無い故、噂ではあるが」
「じゃあ、良い王なんだな……」
「才を持つが則ち良い王には繋がらぬ。所詮は人の子、才があろうが無かろうが、な」
「……ふぅん?」
じゃあ結局どんな王様なんだよ……
ま、きっと才能を無駄遣いしている王様、なんだろうな。
ヴァーグの説明は、偶に意味を掴み辛い。