月虹群雲、乱れて候。
□序章
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容姿なら、中の上くらいだろうか。
自画自賛だが、他人に話したら寧ろ謙遜だといわれるかも知れない。
大方の人はオレ、祝詞弥栄(ノリトヤエ)とすれ違うだけで振り返り、女生徒が花を渡す、という生活をしていれば、ある程度は自覚する。
文化祭で写真部がオレの写真をコッソリ密売し、校内いちの売上を上げたとか。
マージンと一緒に貰った写真は、確かにオレから見ても美人だった。
しっとりとした黒髪。
黒目がちで勝ち気な瞳と、鏡越しに目があう。
自分で見直す分には目鼻口がある、としか思えないな。人の美醜に興味はないし。
いつもならもっと顔色がいいのに、今朝の顔色は最悪だった。
土気色、とは言わないけど、真っ青。
……そうだよな……
原因は判っている。
両親と弟が、先月飛行機事故で死んだ。
葬式は終えても、心労ばかりが溜まっている。
この位なら我が侭を言わず、両親の転勤に付いていけばよかったと、何度となく思った。
……結局、過去は変えられないけどさ。
ひと月も経てば、嫌でも冷静になる。
冷静っていうか、マヒっていうか。
自分への言い訳が何となく嘘臭くなる。
悪い夢でも続いてるみたいだ。