あの空の向こうに

□04 村
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休暇村までは真っ平らな草原の中をトラックで移動しなければならない。トラックの中は酷い揺れで、空の上では酔いもしない者が酔ったり、トラックの支柱に頭をぶつけて病院送りにされた奴もいる。
皆トラックは嫌がったが休暇村を嫌がる奴はいない。
トラックの中は15人ほどで皆気の抜けた顔をしていた。
私の小隊も今日休暇の白沢や、松矢大尉、直方中尉が乗っていた。

「海軍みたいに町の中に基地があるとこんな思いしなくて済むんだがな。」
と松矢が言う。彼とは同期で性格は私とは正反対だが気の合う友人だ。
「ああ全くだ。せめて工兵にまともな道を作ってもらいたいな。」
と私はトラックがたてる騒音に負けじと大声で言う。海軍航空隊もこの地に戦力を派遣しており、元々外洋に置ける敵艦隊に対する作戦を取っている為か、海軍の大半の航空機は航続性能が高い為、内モンゴル自治区最大の都市フホホトにある。我ら空軍は国境から30キロの砂漠の中だ。
休暇村に着き、トラックから降り、伸びをするととむさ苦しい空気と固い座席から解放され清々しい気分が満ちてくる。
「ふうやっとついたか。飛行より疲れるぜ。」
と直方が同じ様に伸びをしため息混じりにいう。
「全くだな。」
と私は直方に同意し、松矢や行くか。という。

休暇村はかつては家が十数軒と学校が有るだけの小さな農村だったが大文化革命による混乱で村人が移住し、今は日本人民空軍の慰安施設になっていた。

かつて学校だった2階建ての施設が宿泊所になっており、かつて倉庫や家屋だったその他の施設は、商品店や雑貨屋、食堂、居酒屋、娼館まで何でも揃っている。

入り口の石造りの門には休暇村へようこそと日本語で書かれた看板があり、日中の国境が掲揚されている。


まず腹ごしらえにと小隊の4人で入り口からすぐの飲食店に入る。いらっしゃいませという怪しい日本語。この休暇村の経営は中国側なので従業員は基本的に中国人だ。
4人はテーブルに座りメニューを見る。どれも日本の五分の一程の値段だ。中国側が経営している一つの利点だ。
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