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□偶然か、それとも
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※現パロ





今日は特別何かある(もしくはあった)というわけでもない日だった。
大学の講義も普段通りに行われ、相変わらず先生の授業は主に板書で。
友達との約束もバイトも、さらには見たいテレビも特にあったわけではなかった。
そう、まさになんでもない日だったのだ。
ただ今朝から降り続いている雨で気分はあんまり浮かないけれど。(まあ、これも特にどうこうという訳でもないが)
課題もレポートも今日が提出日だったし、新しい課題は言い渡されなかった。本当にやることがないのである。
この状況で自主的に勉強しようという優等生でもなければ、今から誰かを誘って遊びに行こうという元気はない。
つまり、何が言いたいかって言うと、今日は暇なんだということだ。


これから何をしようか。

とりあえず溜まった洗濯でもしようかな・・・って今日は雨だし。
買い物は昨日行ってきたうえに、今特別欲しいものはない。(ついでに言うとそんなお金もない)
DVDでも借りに行こうとも考えたが、よくよく考えてみれば家より先の駅前にしかないし。
ああ、一体何をしようか。
人間とはこんなときほど時間を無駄に使う生き物なのかもしれない。


そんなことを考えながらとぼとぼと大学を後にする。
確か次の電車は30分後だから特に急ぐ必要もない。(ついてるのか、ついてないのか)
耳からは最近気に入っているバンドの曲がウォークマンから流れている。
あ、新しいCDを見つけるのもいいかもしれない。
確か駅前にCDショップがオープンしたばっかりだった気がする。
・・・それにしてもこの雨は何とかならないのだろうか。
中途半端に降る位なら思い切って土砂降りのほうが清々しい気さえしそうだ。
なんとなく早く駅に行こう、そう思って歩く速度を速めた。



早めに駅に着いたおかげで少し待ったものの、座席に座ることが出来た。
といっても殆どの人が座っていて、立っているのはほんの数人。しかもスーツ姿のお兄さんくらいだけれど。
ふと、正面の席を見るとお兄さん、というよりも青年といった感じの人が座っていた。
まあ、特に何をしていらっしゃるわけでもないんだけれど、なんとなく、そう、なんとなく気になったのだ。
多分染めてるわけではなく元からであろう綺麗な茶髪に、整った顔立ち。
そして傘を持つ綺麗な手・・・というより指。
うわ、これってなんか変質者みたいじゃないか。(見ず知らずの人の、しかも指だなんて!)

恥ずかしくなって伏せていた顔をもう一度上げると、今度はお兄さんとばっちり目が合ってしまった。(最悪だ)
きっと赤くなったであろう私を見て、不思議に思ってるに違いない。
ああ、穴があるなら入りたいなんて、まさにこのことだろう。



「次は・・・・・、次は・・・・・、」

わたしが降りる駅の電車アナウンスが聞こえ、私は内心ほっと溜息をついた。
こんなにも電車のアナウンスに感謝したことは生まれて初めてだ。

しかしお兄さんもこの駅だったらしく、すっと立ち上がって(座ってるとわかんなかったけど、背高いな)電車の出口へ。
そのときになにか落としたことも気付かずに。



「ニー、ル・・・ディ、なんて読むの?ディラン、ディ?」


落としていったのはなんとも学生証らしく、私はそれを眺めながら駅を後にしている。
追いかけても良かったんだけれど、さっきの今で渡せる勇気はない。
駅員さんにでも渡しておけばなんとかなるだろう。
だけど、驚くことに。


「うっそ、同じ大学だったんだ」


そう、お兄さんは私と同じ大学でしかも同い年だった。(年上だと思ってた!)
しかし頭の出来は違うようで学部は、うちの大学で1番偏差値の高いところ。
やっぱり見るからに頭よさそうだもん。生徒会長とかやってそうな感じだったし。



「大学で渡せばいいよね」

そう思って学生証を私の鞄に直したころには、駅前のCDショップは通り過ぎてしまっていた。
別に特別行きたかった訳じゃないからよかったんけど。


さあ、これから家でなにしようか。
問題は振り出しに戻ることとなってしまった。






偶然か、それとも
(彼と知り合うまで、あと、)







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