short.

□流星に願う君の幸せ
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「誕生日おめでとう、ニール」


時計の針が丁度12時を指した。
誰も居ないトレミーの展望室で、呟いたおめでとうは、真っ黒な宇宙に吸い込まれた気がした。
本当ならば今頃は2人で笑って、もうおじさんね、なんて言いながらキスをして。
そのはずだったのに。貴方の時は止まったままになってしまった。

この真っ黒な宇宙のどこかで、まだ彷徨って居るのかもしれない。
宇宙ではどのようになるのか検討もつかないから。
今でも微かに願うもしも、という奇跡。
もしも、死んでなかったとしたら。
もしも、助かったとしていたら。
こんなことを思っていたら一考に前に進めないと、知っているのに。


じわり、
微かに視界が歪む。
ああ、泣きそうなのか。そう理解するには結構時間が掛かってしまった。



「ふ・・・、拭ってくれる相手もいないのにね」


自嘲気味に笑えば、ガラスに映ったなんとも情けない自分。
いつから、こんなに弱くなってしまたのだろうか。
なんて答えは自分が1番良く知っているのに。


どうして、ニールはここに居ないのでしょうか。




「おい、大丈夫か?」


この声、もしかして。
俯いていた顔を上げると、ガラスに映った愛しいあの人の顔が。
ああ、帰ってきたのね?


「ニールっ・・・」


期待という凶器を持って振り返れば、明らかに傷ついたその顔。
ああ、そうか。この人は弟さん。

何時まで期待するつもりなのだろうか、一体。
その所為で関係ない人まで傷つけて、自分も傷づいて。
愚かな無限ループだ。



「ごめんなさい」


こんなにも貴方を傷つけて。
いつまでも現実から目を背けていて。



「今日だけ・・・」

「え?」


「今日だけは兄さんになってやる」


思いがけない言葉と同時に、体が温もりに包まれた。
ああ、どうしてそんなに優しいの?
傷つけたのは私なのに。辛いのは貴方も同じなのに。

だけど、どうしても脳があの人だと思い込む。同じ声、そっくりな顔。


「っ、・・・あり、がとう」

溢れる涙は止まらなかった。
けれど、今日だけは愛しいあの人に
拭ってもらえるわ。
今日だけ、今日だけは。そしたらきっと前を向ける気がするから。


ひとしきり、泣き終えればガラスに映る酷い顔をした私。
そして、ライル・ディランディ。
彼には数え切れないほどのありがとうを、言わなくちゃ。

それと、もう1つ。大事な一言を。



「誕生日、おめでとうライル」

そういうと彼は静かに微笑んだ。





流星に願う君の幸せ
(願わくば、優しい彼が)
(幸せになれますように、)




3/3 HAPPY BIRTHDAY!




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