short.

□帰らないであろう貴方へ
1ページ/1ページ








「本当に、行っちゃうの?」


「ああ」


まだ、太陽すら昇らない午前4時。
大人びた刹那の背中と、子供じみた私の質問。


ソレスタルビーイング。

4年前まで私もそこのクルーの一員だった。
と、言っても私は只のオペレーターでしかなかったけれど。
刹那とはそこで知り合って、こうして恋人同士と言う関係になったのだった。

しかしそれは過去のことだと思っていた。
大切な仲間を失って、涙を流した4年前。
もう、あんな思いはしたくなかったの。


だから、もう一度聞く。




「行っちゃうの?」



もう誰も失いたくないんだよ。
あんな思いはしたくないの。

刹那を失ったら、私はどうすればいいの?



「この世界は歪んでいる。だから・・・俺は行く。」



まっすぐな瞳は4年前から変わってはいなくって。
貴方を止めるのは不可能だって思った。

私の頬には涙が伝った。


「い、って・・・らっしゃい」

笑顔、ではなかったけれど。
「さようなら」ではなく「いってらっしゃい」を言った。
きっと・・・否、絶対に刹那は帰ってくる。そう信じているから。



「いってくる」

そう言った刹那の声と閉められた扉の音が虚しく響いた。


『世界は歪んでいる』

そう言った刹那だけれど、その歪みを直した先に光はあるの?
大切なものを失いすぎた私には、きっともう見えないよ。






帰らないであろう貴方へ
(嗚呼、臆病者の私はきっと誰も守れやしないのね。)










[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ