E×E

□信じない
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この十数年の人生の中で、私が書いた手紙はそれこそ幾百もあるに違いませんが、きっとこれが最後になる事と思います。
そう思って、私はこれを書いています。事実、きっと、その通りになると思います。
どうも手が震えて上手く書く事が出来ませんけれど、書くべき事、書きたい事、全てを書ききってしまうつもりです。恥も外聞もなく、吐き出してしまうつもりです。
きっと、貴女は嫌悪されるでしょう。ただでさえ嫌っていた私の事を、ますます嫌ってしまうかも知れません。憎い私の事を、呪ってしまうかも知れません。
ですが、それでも構いません。
それは素晴らしく妥当で、正しい考えです。そうでない方が間違っているのです。
私のような人間は、生きているだけで他人を傷つけるのだと昔誰かが言っていましたけれど、至極まっとうな話です。私には今まで十数年、他人を喜ばせた事などないのです。それは作り笑いであったり、憐れみであったり、同情であったり、他にも理由はあったのでしょうけれど、どうしたって、私が作った、私に対する感情はマイナスを向いていたのです。
何をしても、私は悪い事しか出来ませんでした。何もしなくたって、何もしないことで私は他人を傷つけていました。
いつだって針はマイナスに振れていました。ゼロさえありませんでした。私はその度何かをしようとした筈ですけれど、事態は維持も出来ず悪転するだけでした。
そうして、私は諦めてしまったのです。
いつの間にか心は麻痺してしまって、あれほど強く感じていたマイナスを全く感じなくなりました。
私は誰にも関わらなくなりました。のうのうと、他人を傷つけながら生きていました。
それからでしょうか。
私は、誰かに倒される事を夢見て生きるようになりました。悪として鉄槌を下される日を待つようになりました。
要するに、私はどこまでも他力本願で、自分の人生さえ他人にどうにかしてもらうしかなかったのです。
しかし、貴女も知っているでしょう。この町には優しい人しかいないのです。外の世界ではありふれているだろう差別だとか迫害だとかの現象、要するに私を殺せるだけの悪意が、この町には存在しなかった。
私は途方に暮れるしかありませんでした。これでは私は生きるしかなくなってしまう、そう思ったからです。その割に自殺しようなどと言う考えが一つも浮かばなかったのは、やはり私は最低の臆病者だったという事でしょうか。
そしてそれからまたしばらく、私はだらだらと生き長らえました。醜いと言う事は自分にも分かっていましたけれど、そうする他に何も思いつかなかったのです。
そうして、月日が過ぎました。この辺りの記憶はぼんやりとしてしまっていて、何があったのかはいまいち分かりません。ただ、相変わらず他人は優しかった、それだけは自信を持って言えます。私は怠惰に生き続けました。

 
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