E×E

□信じるな
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西院川てくのの五年七組に於ける立ち位置は教師を含めクラス全員に知らぬ者はいなかったから、夏休みが終わり十日が過ぎても彼女が学校に来ないことを心配する人間は僕だけだった。
それと言うのも、幼馴染みという関係がいけない。家が塀を挟んだだけの隣というのもひとつ。屋根を渡ればお互いの部屋を行き来できるというのもひとつ。要するに僕にとって西院川てくのという少女はあまりに近すぎ、あいつらのようにいてもいなくてもいいものみたく扱うことが出来ないという訳で、僕は今西院川てくのの見舞いに来ている。
西院川てくのの部屋は狭くも広くもなければ散らかってもいない整然としたもので、部屋の殆どを占拠した大人三人は寝られそうな天蓋付きベッドを視界に入らないようにさえすれば(そんなことは出来るはずもないのだけど)、ごく普通の女の子の部屋と言えた。

卓袱台みたいなこぢんまりした机の上にはノートと色鉛筆が乗っかっているし、これまたこぢんまりした本棚は俗に言う幻想文学でいっぱいだし、ベッドの次に大きな白い洋服箪笥を開ければ姉さんが誕生日にあげたフル装備のメイド服が出てくるはずだし、この絨毯をめくれば扉が見つかるはずだ。
僕の思った通りやはりここは西院川てくのの部屋で、彼女がいないのは単に彼女がどこかへ出ているからなのだ。
彼女のご母堂によると西院川てくのは病院に行っているらしい。『すぐ戻ってくると思うから待っててね』、そう言われたのはおよそ二十分前。卓袱台の上のグラスは空、クーラーも随分効いてきた。夏休み明けと思えない陽気は窓の外、ざまあみろ。
西院川てくのが選んだというオレンジのカーテンが冷風に揺れ、僕は再び時計を見上げる。四時四十分。どうせ隣だから時間など構いはしないが、暇を潰すにこの部屋はあまりに空虚だ。僕は溜息をつく。
座布団を引き寄せ、絨毯の上に横になる。さすがにベッドは使えない。それにこれは自慢ではないが僕にはどんな場所でも眠れるという特技がある。頭を通り抜ける涼しさに、僕が屈服するまでそう時間はかからなかった。




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