熱い頬には優しい風



ケセドニアの風は今日も熱い
砂漠から戻ってきてティアは内心安堵していた
例え兵士として訓練されているとはいえ、やはり快適な場所にいたい
アニスやナタリアも同様だったようで、部屋を取ると女性陣はすぐに湯浴みをして身体中から細かな砂塵を流し落とす
髪を乾かしてから談話室に行くと、ジェイドが一人で紅茶を飲んでいた
他の男性陣は見当たらない

「ルークとガイなら外で稽古していますよ。イオン様は部屋で休んでいます」
「……何も言ってませんが」
「顔に『ルークはどこだろう』と書いてありますよ」
「大佐っ!」

顔色一つ変えない相手に息を吐き、部屋に戻る
超振動の訓練は夕食後にしよう
そう思って夕食を待つ
ルークとガイはちゃんと夕食には戻ってきていた



***



「でね、この地方に纏わる話だけど……」

失敗した、とティアは唇を噛む
アイテム整理をしていたらジェイドから聞いた怪談を披露しようと目を輝かせたアニスに捕まってしまった
さっさと訓練をしてアイテム整理は後回しにすればよかったのに
別に約束をしているわけではないから逃げられない
ため息をついた瞬間、ノックがされた

「は、はい」
「あ、ティアいた」

ルークが顔を出す

「なあにルーク、ティアをデートに誘いに来たの?」
「まあ、そうですの?ルーク」
「ばっ……!ちげえよ!音素学でわからないところがあるから聞きに来ただけだ」

真っ赤になり慌てるルークに少し罪悪感を感じながらも安堵し、すぐに荷物から本を出してルークに駆け寄る

「わかったわ、教えるから」
「助かるよ、じゃあちょっとティア借りるから」

扉を閉めてほっとする

「とりあえずさ、外に出ないか?」
「え?ええ」

宿の外に出てベンチに座る
昼間とは違って風は肌寒いぐらいで
ルークがマントを渡してくれる

「ありがとう……で、ルーク、どこが……」
「いや、本当はわからない所はないけどさ」
「……え?」
「ジェイドがアニスに怖い話してたから、ああこれは話すのかなって思ってさ。ティア怖がりだろ」
「ち、違うわ、怖くなんかないわ!」
「そう言うことにしとく」

ルークが小さく笑みを浮かべる

「それよりさ、空、きれいだよな」
「え?」

見上げて息をのむ
零れんばかりの星が広がって瞬いていたから

「すごい……」
「バチカルでもこれだけは見られなかったかさ。前、一度見たときからティアに見せたかったんだ」
「私……に……?」

ああ、とルークは頷く

「ティアが連れ出してくれた、だからこうやって色々な景色を見られるようになった。だから、さ……それに」
「それに?」

照れ臭そうに頭を掻く

「少しでもティアには笑っててほしい。身体の痛みとか、辛いことは忘れてほしい」
「ありがとう、ルーク」

そう言うと無邪気な笑顔を向けてくれて
頬が熱くなる
さっきまで肌寒いと思っていた風は
優しく頬を撫でていってくれた




FIN





あとがき


お題にあっているかどうかびくびくしています。
時期は旅の再開から少したったぐらいです。
このような機会を下さった楓様には感謝しております。
ありがとうございました


ユキ




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