苦しい、消えてしまいたい



「ほらシング、もっとポーズとって!ピースピース!あとウインク!……あー、それピースじゃなくてキラッ☆てやってるし…あーもうちょっと違うけどもうそれでもいいや。可愛いし。二人にはボクのデッサンの参考になってもらうんだからもっと違う角度からも撮らなきゃいけないかなー……あ、シングもっと笑って!」

「お兄ちゃんはシングの腰に手を回して。ていうかもうお尻触ってもいいから!セクハラするみたいなやらしい手つきで………こら!シングのお尻つねらないの!だから触るんだってば、もう!あと表情はなくていいから、ただやらしさを演出するからちょっとだけ唇はあけててね」

そうして段々ポーズを強制されていくシングとヒスイに、容赦なくカメラのフラッシュが次々に炊かれた。
シングは顔をひきつらせ、ヒスイは露骨に不機嫌そうに、フラッシュの雨を一身にうけている。
ちなみに二人の服装はヒスイが正装、シングがどういうわけかメイドである。

「……おいイネス、なんで止めねぇ」

「面白いから?」

「ぐっ……テメエあとで覚えてろよ!!」

「お兄ちゃん動かないで!」

皆がこうして端から見たら不可思議に見える行動に及んでいるのにはわけがある。
ベリルが人物デッサンのモデルが欲しいと言ってシングとヒスイにポーズをとらせる所から始まり、イネスがどうせそうするならと二人にコスプレをさせ、コハクが妙なポーズをとらせて写真を撮りはじめた。
それを面白く思ったコハクも、カメラを用意して写真を撮る運びになった。
そして、今にいたる。
ヒスイは正装だからともかく、シングは女装経験がないためスカートの中がすーすーする上、下手すると短いスカートから、無理矢理穿かせられた女物の下着が見えてしまいそうになるのだ。
だからこんな衣装は早く脱いでしまいたいのだが、コハクとベリルはカメラをひっこめないし、イネスは面白がって傍観している(リチアは遠方で睡眠中)。

「なんで俺がよりにもよってこいつと…」

「ううう……恥ずかしい、苦しい、ていうかいっそ消えてしまいたい…!」

「あ、二人とももうちょっとほっぺた寄せて欲しいなー。シングちょっとむすっとした顔で目線頂戴」

「ベリル、もう限界だ!!気がおかしくなる…つかこのままじゃ俺、なんかに目覚めちゃうよ!」

「き、気持ちわりい事ぬかすな!」

「はい、しゅーりょー。おつかれさま、いいのが撮れたよー」

やっとカメラのフラッシュが止んだ。
ベリルはモデルを撮影するカメラマンのような事を言ってカメラをひっこめた。
しかしそれとは違い、コハクは何を思ったかベリルに自分のぶんのカメラをわたす。

「え、コハク?」

「撮って!」

コハクはヒスイを押しのけてシングの腕に抱き着くと、あわててカメラをかまえたベリルにむかって元気いっぱいピース。
ぱしゃっ。
パーティきってのバカップル、シング(メイド)とコハクのツーショットが撮れた。

「え、こ、こは……っ!?」

さっきまで真っ青にしていた顔を瞬時に真っ赤にさせてあわてるシング。
そんな彼にコハクは「えへへ」いたずらっぽく舌を出した。
シングはそんな彼女の仕種にはかなわないらしく、それ以上何も言えなくなってしまう。

「それよりシング!!」

「えっ……ど、どうしたの?コハク…」

いきなり叫びだし、コハクはシングの肩をがっしり掴んだ。
その瞳は異常なほどギラギラと光を孕んでいて、下手すると瞳孔とか開いてそうだった。

「私もう我慢できない!シングをお持ち帰りしたい!」

「………え?」

お持ち帰り?テイクアウト?
かぁいいかぁいい、はぅ〜ってか?
…ちょっと待て、じゃあまさか……

シングが思考にひたり出した瞬間、コハクはぐわしっ!とシングの腰に腕をまわし、肩にかかえあげた。
女の子にかかえられるなんてかっこわるい、下ろしてくれとシングは叫びたかったが、あいにくそうする前にコハクははるか遠方へと全力疾走しはじめていた。
宿のある方角だった。

………喰われる!!

「ここここはく!はなして!」

「あははは、誰が離すもんですか!大丈夫、大丈夫よ!優しく食べてあげるから!」

「それでも嫌だ−−−−ッ!!」

シングの叫びは悲しくもはるか先までは届くことはなく、ついにコハクはシングをかかえたまま宿まで一直線に走りきったのだった。

「さーて、なにからしてやろうかしら…♪」

「お、お願いだからせめて優しく…アッ−−−−!」

その後シングがどうなったのかは、当事者だけが知る事である。




END






●あとがき
まさかシンコハをかかせていただける事になるなんて……ww
素敵企画様にせいいっぱい捧げます、こんなものでよければどうぞ!





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