短編小説

□極楽鳥花
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好きだ。

好きだ。

……愛しすぎて、



堕ちたのは、いずれか。





―――極楽鳥花―――





「はははっ、やめんしゃい赤也」
「仁王先輩髪の毛さらさらっすね〜!」



揺れる銀色の尻尾を、赤也が手に取りそれで遊ぶ。それを精市と柳生が微笑ましそうに見ている。



「髪伸びましたね、仁王くん」
「俺もそろそろ切ろうかな−、どう思う柳生?」
「幸村部長はその位が一番似合いますよ」



なんて、優男二人は穏やかに会話しているのに対し、



「俺の方がさらさらだろぃ」
「俺はつるつるだ」
「ジャッカルそれ髪の毛じゃねえだろ〜!」



あははは、と、仁王と赤也に混じって丸井とジャッカルまでふざけ合う。



「そこ!たるんどる!」



そしてそこに我らが副部長の怒号が飛ぶ。それを精市と柳生が笑う。

いつもの風景。


―――でも、


気だるげに歩きながら、こちらを自分の肩越しに振り向くペテン師は。

まるで俺を試すかの様に。



「…参謀も、こっちきんしゃい」



にやりと意地悪く笑うその顔が。


―――ああ、


思わず彼に歩み寄って、その腕を掴んだ。

彼は大して驚いた様子も見せず、その表情を崩す事もなく。

黙って彼の腕を引いて行く俺に、従順について来る。

俺も、呆気に取られたまま動かない他の部員を気にすることも、なく。



「どうしたん、柳」



押し付けたテニスコ−トのフェンスを背に、彼は飄々とそう問うた。

その態度に、俺は思わず眉を顰め、無意識に開いた眼で彼を睨んだ。



「恐いカオしとらんと、」
「昨日、」



俺より小さい彼を見下ろし、俺は更に彼に詰め寄った。



「昨日、お前は俺に何と言った」



―――昨日、



『俺、柳の事好いとうよ』



彼は、言った。


―――俺を好きなのはお前だ。


なのに、どうして。



「…苛苛する」



全部、お前の全てを



「お前は俺のものだろう」



吊り上がる彼の口元が近付いてきて、やがて焦点が合わなくなる程に距離が縮まって。

襟足に手が添えられて、引き寄せられたと思ったら、不意に唇に熱が触れた。

歯列をなぞる侵略者に応えつつ、彼の煌びやかな銀の尻尾を指先に絡める。


―――この髪も、


腰に腕が回り、更に引き寄せられた。


腕も、零れ落ちる吐息も、



「…可愛いのう、嫉妬かい」



挑発的な、その声ですら。



(違う、)



再び触れた唇を受け止めながら、言葉にするには癪な程の思いを。



(全部欲しい)



好きだ。

好きだ。

……愛しすぎて、



ペテン師の口説き文句に、必要以上に堕ちたらしい俺は。



(全部、お前の全てを)



もっと深い所へ、引きずり込んでやる。





極楽鳥花
―――全て手に入れる

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