短編小説
□心眼
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「お前は俺を騙せない」
「何故」
「それはお前が一番よく知っている」
―――心眼―――
「参謀、ゲ−ムをせんか」
振り向いた彼の表情が、問う様に歪められたのを見て。
「上手く嘘を吐けた方の勝ちじゃ」
「無益」
「そう言うと思ったわ」
「なら、何故」
背の高い彼に歩み寄れば、その優美な眉が顰められる。
答えない俺にじれたのか、愛しい参謀は。
「…言っておくが、お前に勝ち目はないぞ」
にやり、参謀らしい狡猾な笑みを、口元だけに浮かべてそう言った。
そんな彼の表情に、俺は思わず生唾を飲んだ。
「俺はペテン師じゃぞ」
「そうだな」
「詐欺師じゃぞ」
「日本語訳するとそうなるな」
ふふふと微かに笑う彼の、閉じられた目が、少しだけ下限に歪んだ。
その表情に、また。
―――綺麗だ、参謀。
俺を、狂わせてくれる。
「お前は俺を騙せない」
「何故」
「それはお前が一番よく知っている」
こんなに近くで、あんたの開かれた眼を見るのは初めてだ。
いやだ、見るな。
俺を裸にするな。
「ペテン師が自分をペテン師だと呼ぶという事は、嘘吐きが自分を嘘吐きだと呼ぶのと同じ事」
「そうじゃな」
思わず逸らした視線を、いともたやすく囚われた。
冷静な声色で、まるで俺を射堕とそうとするかのような鋭い眼光。
―――見破られる、
「嘘吐きが、自分は嘘吐きだという真実を口にする訳だ」
―――暴かれる、
「…お前は正直者」
―――参謀の“心眼”に。
触れた唇からも伝わるか、綺麗な参謀。
開かれたあんたの眼が、俺の奥まで掻き乱すことを、知っているのか、狡猾な参謀。
(あんたにだけは、)
俺のペテンは通用しないと、
(俺自身よりもよく知っていたのか)
愛しい参謀。