一年の内で子供が最も心待ちにしている日といえば、クリスマスイブだろう。


数日前から準備にいそしむ母の側で、子供達はクリスマスまであと何日なのか、指折り数えては期待に胸を躍らせる。

まちに待った当日。
色鮮やかなクリスマスツリーやリースが飾られた家の中には、これまた色鮮やかなご馳走が並べられる。

家族全員が集う食卓には笑顔が溢れ、暖かい雰囲気が醸し出させる。

食後も家族でテレビを見たり遊んだりして、楽しい時を過ごす。そして――

夜も深まり始めるころ、子供達は眠りにつく。サンタクロースの訪問を待ちわびながら……



†サンタクロースよ、連れてって†


勿論ここ、八神家も例外ではなかった。小学校5年生の兄と2年生の妹、それから父と母の四人家族で、クリスマスパーティーを開いていた。


1999年12月24日。
時刻は午後10時をまわったところ。妹ヒカリが目をこすり始め、パーティーもお開きと言うムードになってきた。

「さぁ、もうそろそろ寝ましょう。ほらヒカリ、歯を磨いてきなさい」

「はぁ―い」

「えー、もう寝んのかよ。
あと一回ぐらい大富豪やらしてくれよ!」

「もうお兄ちゃん!そんなことしてたらサンタさん来てくれないでしよ」

「わ、わかったよヒカリ。」

かわいい妹にそう言われては仕方ない。太一はしぶしぶトランプを片付け始めた。


散らかしたものを片付けて、歯を磨いて、枕元にサンタクロースへの手紙を置く。
寝る準備は完了。あとはぐっすり眠るだけだ。

「お母さん、おやすみ」

「おやすみなさい。サンタさん来るといいわね」

「うん!」

二人がベッドに入ると同時に、部屋の電気は消された。







「…お兄ちゃん、起きてる?」

ヒカリがそう訊ねてきたのは、電気が消されてからしばらくたち、太一が眠りに落ちようとしている頃だった。

「…あぁ、起きてるけど…」

「本当に?寝る直前だったんじゃない?」

「ま、まーな」

「…ごめんね。起こしちゃって」

「いや、いいよ。
どうしたヒカリ、眠れないのか?」

「うん、サンタさんが来るんじゃないかと思うと眠れなくて」

「そうかぁ。でもそれだとサンタさん来てくれないぞ」

「うん、そうだよね…」

静かになる室内。

ヒカリはこの沈黙に対して少し気まずそうにしているが、太一は大して気にもせず、再び眠りに落ちようとしていた。

「…ねぇお兄ちゃん」

「ん…なんだよヒカリ。まだ寝れてないのかぁ?」

「サンタさんって、きっと今世界中をまわってるんだよね?」

太一の言葉を無視し、逆に問いかけるヒカリ。
それも唐突な問いを。

「え…それは、そうなんじゃないか?」

ヒカリからの返事はない。

「ヒカリ?」

「…お兄ちゃん。私ね、サンタさんに連れてって欲しいの」

「連れてって、って…なんで、どうしてそう思うんだ?」

「だって、サンタさんは世界中を旅してるんでしょう。それならきっとデジタルワールドにも行くと思うの。
だから、一緒にソリにのっていればテイルモンにも会えるんじゃないかと思って」

ベッドの中で数十分考えていたことをヒカリは話す。

その声には叶いっこないという諦めではなく、希望が込められていて。

「それに、もしテイルモンに会えなくても、今デジタルワールドがどうなっているのかわかるじゃない。
それだけでも私すごく嬉しいから」

デジタルワールド。

その響きに、太一の心は大きく揺さぶられる。


行ける?デジタルワールドへまた行くことが出来る?

またアイツに逢うことが出来るのか?

俺達がいなくなった後の世界を知ることが出来るのか?

「そのためなら私、プレゼントなんていらない」

俺も、いらない。

あの世界にもう一度行けるのなら、何だって我慢できる。

だから…

「…お兄ちゃん、私の話そんなにおかしかった?」

ヒカリの声で、太一は我にかえった。

「いや、そんなことない。お兄ちゃんもそう思っただけなんだ」

「そっか。
ありがとう話聞いてくれて」

「あぁ。
おやすみ、ヒカリ」

「うん、おやすみ」



今度こそ、ヒカリは寝付いたようだった。

逆に、太一は寝付けずにいた。

――そうだ、俺もずっと望んでいたんだ。冒険が終わったその時から。

現実でも沢山ワクワクすることがあった。

けど、その度にアイツの存在を思い出して、心の底から楽しめてなかったのも事実で。

今日のパーティーも、アイツが居てくれたらどんなにいいかと願わずにはいられなかった。

冷静に考えたら、サンタがデジタルワールドまで行くとは思えねぇ。

それ以前に本当にサンタがいるのかすら怪しいんだし。

でも、もしヒカリの言う通りだとしたら、

デジタルワールドまで行く事が出来るのなら、

サンタクロースよ、連れてってくれ。

もう一度、あの世界へ――


切なる願いを抱いた兄妹に、サンタクロースが微笑むことはなかった。

しかし、彼らはいずれあの世界へ再び旅立つことだろう。

自らの力で扉を開けて。



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うわぁ、やってしまった…(>_<)

クリスマスに間に合わなくてすみませんでした…<(_ _)>土下座


こんな遅くなってしまいましたが年内フリーとか言ってみたりします。


では皆さん、クリスマスも良いですがお正月も楽しんじゃいましょうね(o^∀^o)

2008.12.27

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