気まぐれ短編集
□闇焔の神
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住宅街にある大きな神社に女の子は佇んでいた。
「あーあ…一人になっちゃった。」
誰もいない神社の裏で静かに呟いた。頬からは涙が零れる。
「どうした?泣いているのか?」
何処からか男の声が聞こえてきた。
「誰?」
「闇焔の神だ。一人になったとは、何かあったのか?」
「神様?そう…死んじゃったの。お母さんもお父さんも。私を置いて居なくなっちゃった。」
「親戚はいないのか?」
「皆逃げるように離れていくの。育てるお金を出すのは嫌だって。」
女の子は悲しそうに俯いた。
―ぎゅっ
背後から誰かに優しく抱擁された。
「…え?」
女の子が振り向くとそこには笑みを浮かべた男の顔が至近距離にあった。
髪は黒く、真紅の瞳をしている。年は二十代前半だろうか。
「私がお前をもらってやろう。」
「ううん、一人でも大丈夫。」
女の子は男からの救いの手を取ろうとはしなかった。
甘えたくはなかった。
女の子は男を思い切り押して離れようとした。
「逃がさない。」
そんな抵抗を楽しむかのように男は笑う。
女の子の抵抗は結局無駄に終わった。大人と子供では力の差がありすぎる。
「離して。知らない人に頼るほど私はバカじゃないの!」
「幼いくせにしっかりしているな。心配するな。お前は私から逃げられない。」
「どうして?」
「私の姿を見たからだ。私を見た人間を放っては置けない決まりだ。つまりお前には殺されるか私と来るか、二つの選択肢しかない。」
「横暴。だったら殺して?信用できない人について行きたくないから。」
女の子はあっさりと答えた。死ぬことを恐れない女の子に男は呆気にとられていた。
「…っ…ハハッ…ハハハハハ!!」
暫くの沈黙の後、男は突然笑い始めた。
「え?」
女の子は意味が分からないといった様子で男を見た。
一体さっきの答えの何処に笑う要素があったのだろうか。
「やはりお前を殺すのは惜しい。連れて行く。」
男は意地悪そうな笑みを浮かべた。
横暴すぎる。
つまり最初から女の子に選択権はなかったわけだ。
女の子は男を睨んだ。