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□休み知らずへ制裁を
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 出かけ際の私へ声を投げかけた主が誰なのか、思考を巡らせるまでもない。
「善太夫さん」
「善太夫さん、やあらしまへん。なんで殿さんを止めへんのどすか」
 家中の中でず抜けてある上背に不釣り合いな、細やかな気配りの出来る治長様古参家臣である北村善太夫さん。私へ声を投げかけた方、米村はんと私を呼んだ方。だから、そう、私は廊下を行く足を止めたのだけれど。
「止めても、きっとお聞きいれになりませんよ、治長様は」
「そない言うても、分かってはりますやろ?あのままやったら、いずれぶっ倒れてまうわ」
「……ええ、だから、今日が最後です」
 今日治長様は、面倒を看ている後藤様の住まわれる庵へと行く。
仕事仕事仕事とここ暫くずっとお休みになられていないのにそれでも行こうとする治長様を、私達家臣は止めて聞き届けて貰えなくて。今日後藤様の所から、帰ってきたら。
 善太夫さんが、羨ましいくらい逞しい腕を組んだ。
「縛り付けてでも、寝所に放りこみますえ」
 それしか多分きっと、手は、無い。




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