09/30の日記

21:09
観覧車
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「これでしばらく乗せて」
従業員の手のひらにありったけのお金を乗せた。
ゴンドラはあの時と同じ赤。
3周めを過ぎた頃、あの人の幻が現れた。
若干ノイズがかっているけれどあの日となに一つ変わらない。
映写機で眺めるような世界。
「…ずっとお会いしたいと思っていました」
私がまだ若い頃、一人でこの遊園地に来たのは良いが観覧車に一人で乗るのは人目に寂しくうつるだろうかと乗るのを渋っていた。
そこへ見ず知らずの青年が一緒に観覧車に乗らないかと誘ってくれたことがある。
ナンパかと聞けば青年も一人で遊園地に来たのだが、一人で乗るのはどうも恥ずかしかったのだと照れながら話してくれた。
私はその誘いを受け、会話と初めて見る景色を楽しんだ。
「まだ憶えてくれてたなんて、嬉しいな」
「あの時はどんな話をしていたかしら…楽しかったのは憶えてるのだけれど」
「そんなものですよ」
控えめに続いた会話の後に青年は言った。
「遠くから来たのでしょう。電車に間に合うように帰りなさい」

女が去った後、残った彼は呟いた。
「今日もあの人は来なかった…」

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