ある山の奥。
電気も通っていない、人もいない辺鄙としか言えないその場所に、ある目的を果たせなかった者達の集まる場所があると言う。

誰が言い始めかは謎であるが、それが実在するというのは確たる証が無いにも関わらず、誰にも否定されることは無かった。

何処とも知れぬ場所であるはずであろうに、そこには今日も一人の人間が訪れる。




「あ、こんにちはー!よく見つけられましたねえ、こんな辺鄙な場所なのに!」

からからと、おおよそ他人に不快感を抱かせない笑い方をした人物は訪れた人物を発見すると走り寄り、右手を差し出す。

「あ、軍手のまんまじゃ失礼ですよね。」

固まったままの訪問者に向かいさっさと軍手を外すと再び笑顔と共に右手を差し出した。

「あ、申し遅れました!私、ここの住人をやっている鈴木と言います!」

「…………すみません、場所間違えました。」

だが訪問者は冷めた目を鈴木に向けて踵を返す。
それを目にした鈴木は慌ててその人物に追いすがり腕を取って引き止めた。

「ああああ、ま、待ってください間違いじゃないです多分アナタがお探しの場所はここですよー!」

大分情けない声を出しながら鈴木は必死に言い募る。
何故鈴木が慌てる必要があるのかは謎だが、恐らく話を聞かなければその内容を否定するにせよ何にせよ面倒臭そうだと嗅ぎ取ったらしい訪問者は、鈴木に掴まれた腕を振り払って向き直る。

「じゃあここは何なんすか。」

疑問というよりも、さっさと答えろと言わんばかりの失礼としか言い様のない態度で訪問者は問うた。
それでも話を聞く態勢だと判断したらしい鈴木は不快感すら感じていないのか、パッと表情を明るくする。

「あ、ここはですね!もうお耳に入っているかと思いますが、自殺しきれなかった方の集まると言われている場所です!」

どこまでも朗らかに説明してのける鈴木に、訪問者は再び固まる。
実は山奥でエコライフ送る集団ですとでも言われた方が納得できそうな具合だったが、違うようだ。

「では改めまして。私、ここの住人の一人である鈴木由依と申します!あ、アナタは?」

またも右手を差し出して握手を求めて来る鈴木に、どうやら目的地としては間違いではなかった訪問者は、その手を取らずにただ鈴木の顔を眺め。

「空木芳紀(うつぎよしのり)…………本当に死にたがり?あんた。」

鈴木に疑惑の視線を投げかけるのみで、握手に応じる気は無いようだ。

それに対して鈴木は苦笑とも困ったような笑いとでもいったような微妙な表情を見せ、回答はしなかった。

「…管理人さんのトコ行きましょっ?多少の説明もあるでしょうしね!」

気を取り直したように何とも表現しがたい笑顔から自然にふにゃりと気の抜けたような笑い方に変化させて、説明?と鈴木の言葉に問い返す間もなく空木は、ポケットに両の軍手をねじ込んだ鈴木に手を取られて半ば(どころかどう見ても)強引に眼前にそびえる建物の中へと招かれ、中へと足を踏み入れた。
 

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