なるようにしかならない
□閑話 〜別名無駄話〜
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某日
「毛玉ー。……赤毛ー?」
「マサネお前名前呼べよ。」
「ああごめん。で、聞きたいんだけどさ、今日って何月何周何日目?」
「あぁ?1の月第4週8日目だ。」
「1月48日ね……うん、ありがとフレイム!」
「うお?…お、おお。」
某日
「シャイムさーん!欲しい物があるんで一緒に買い物行っていいですかー?!」
「宜しいですけれど何を買うんですの?」
「えへへ、見てからのお楽しみですよー。」
数日後
「たーのもブふぇッ!?」
「うっせえ。」
常の如くやかましく訪れ扉を開いたキールにすかさず、眉間に皺を寄せ黙れと言いたげな表情のフレイムが顔面全体を手のひらで叩く。
痛くは無いが衝撃があるようにするという無駄に細かい技を駆使したのだが、扉のすぐ近くにいたフレイムを不思議そうに見やるキール。
「珍しいな、フレイムがすぐさま出て来ると、は………?」
言い終わるかどうかといった時に、キールは軽く鼻を鳴らして空気の匂いを確認するとまた不思議そうな顔をする。
「何だ?このやたらと甘い匂いは。」
思ったままを口にするキールに、また額に一撃がぺちんと音を立てて入った。
「……マサネだ。」
何やってんだか知らねえけどよと、苦々しげな顔で答えてから今や集合場所とも言える食堂へと踵を返す。
その後に続いたキールは、そこにいた面々を見て更に首を傾げる。
「おお?珍しいな、シャイムが厨房に居らんとは。」
ぶすくれた表情を隠しもせずにソファに陣取り足を組んだ、明らかに不機嫌だと主張しているシャイムに話を振った。
どう考えても真っ先に話を振るべきとは思えない人選だ。
だが誰も咎めない。
何故ならば誰も彼の相手を自分がしたいとは思わないから。
「あぁ?ンだよ俺がここに居ちゃあ悪いってぇのかよキール?何かマサネが俺が知らねえモン作るみてえだったから見てようかと思ったら自分以外はウェルだけしか入んなっつって締め出しだぜぇ?」
まるで酒でも入ったのかと問いたくなる態度だが、彼は不機嫌だったのだ。
それこそ素の言葉遣いになる程度には。
甘い香りは漂ってくるわ、こっそり覗きに行きたくともウェルが居るせいでそれも無理だわ、そして材料がどんな物に変化したのかも分からずに完成の時を待っているのだ。
正直、シャイムの言い分としては「見るぐらい良いだろケチ」だ。
グダグダとキールに絡みながら文句を溢すシャイムを完全無視するように、もう一人その場にいた者に目を向けるキール。
「ザザも居るとは……。何なのだ?今日は。」
心底珍しそうに、それこそ人面魚か何かをうっかり発見してしまった人のようにまじまじとザザを凝視する。
それに対してザザは相手をするのすら面倒臭そうに視線を一度キールに向けてから、虚空に視線を投げた。
シャイムと同じソファの上、しかも隣に座っているので今の今までシャイムからの愚痴を聞いていたのだ。
それはうんざりしたくもなるだろう。
「無視してんじゃねーよ。ってェか出来てからのお楽しみだそうだぜ?マジで何も教えねーでやんの。」
その質問とも疑問ともつかない発言に食い付き答えるシャイム。
もう結構経ってっからそろそろ終わっても良い頃なのによーと呟く。
「ふむ、ではフレイム!いつも通り手合わせと」
「しねえよ。」
どこまでもマイペースにキールはフレイムを誘うが言い終える前にあっさり一蹴された。
しかもソファの端――ザザとシャイムとは反対の方だ――にどっかりと座り込む。
明らかに"待ち"に入っている三人を見て、キールも更にその間に座った。
だがそれから長く待つ事は無く。
「お待たせしましたー。」
がらりと厨房から扉を開け放った真祢がその場に現れる。
その手中の盆には茶色い物体がいくつか。
それに一番早く反応したのはシャイムで、すぐさま彼女の目の前に立つ。
「……何ですの?これは」
が、それらが何なのかよく分からなかったらしい。シャイムは思案するように眉を寄せて首を傾げた。
「こっちじゃ馴染み無いんですね。これはチョコレートと言いまして……」
「薬、ですわよね?」
説明しようとする言葉を途中で遮り真祢の顔を真っ直ぐ見据える。
彼女が買いたいと言ったものは薬屋で取り扱っていたからだ。
「ええ、私の世界でも元はそうですけど、今や立派なお菓子です。」
盆にあったのはチョコレートの菓子が数点。
オーソドックスに生チョコとトリュフ、そして生チョコケーキ。
見た目は美味そうだ。
元が薬で苦いと知っていても、漂う香りはどこまでも甘く。
どうしたものかと迷う面々を全く気にせず盆をテーブルの上に置くと、お茶持ってきますーと真祢は再び厨房へ引っ込んだ。